侵Q65

CADソフトに関する欧州特許出願をする上で、知っておくべき欧州の特許制度について教えて下さい。

質問

パソコン/スマートフォンにインストールして使用するCAD(コンピュータ支援設計)ソフトを国内で販売しています。現在、改良版CADを開発中で、その改良版CADソフトを欧州でも販売する予定です。そこで改良版のCADソフトに関する欧州特許出願を考えています。
 欧州におけるソフトウエア特許出願の発明成立性、特許になった後の権利行使に関して基本的なルールを教えてください。

回答

1.ソフトウエア特許の特許性について

欧州では、ビジネスモデルのソフトウエア発明は特許になりません。しかし、コンピュータを用いて実施するソフトウエア発明は、技術的手段を備えているか又は技術的手段を用いて技術的作業を解決する限りにおいて、発明成立性が認められます。ソフトウエア発明は、方法のクレイムとしてのみではなく、その方法を実施する装置及びコンピュータプログラム自体のクレイムが含まれます。
 発明成立性を認められたソフトウエア発明は、さらに新規性及び進歩性などを備えていれば、特許になります。
 権原なき第三者が、特許されたプログラム又は発明を実行するためのプログラムコードを記憶したデータ媒体を販売等した場合、特許権の直接侵害となります。
 このソフトウエア特許の運用は、1998年のIBM審決(註1)に基づくもので、EPCの審査基準(註2)では、コンピュータプログラムがコンピュータを作動させているときに、通常の物理的効果を超えたさらなる技術的効果を生じる可能性があれば、発明成立性の除外の対象とならないことが規定されています。
 CADソフトに関する欧州特許出願は、欧州特許法下で発明成立性が認められます。

2.ソフトウエア特許の直接侵害と間接侵害

仮にCADソフトに関するソフトウエア特許が存在する場合、その特許発明の構成要件をすべて含むCADソフトのDVDが販売された場合には、直接侵害になります。
 また仮にCADソフトに関する装置(パソコン等)特許が存在する場合、その特許発明の構成要件を含むCADソフトが記憶されたDVDが販売された場合には、DVDの販売は間接侵害になる可能性があります。

3.欧州での特許侵害訴訟について

現在、欧州での特許侵害訴訟は、多くの場合ドイツで行われています。特許侵害訴訟がドイツで行われる理由として、4つの理由が考えられます。

  • 1.ドイツの裁判所における侵害訴訟の経験が豊富であることです。ヨーロッパの約80%の侵害訴訟がドイツで行われています。
  • 2.ドイツがヨーロッパ最大のマーケットであるため、特に侵害訴訟の結果が特許権者にとって良い結果となった場合、特許権者に与える影響が大きいためです。
  • 3.一般的に、ドイツでは初審に対する判決が1年以内に出るためです。
  • 4.訴訟費用が、イギリスなどの他のヨーロッパの国と比べると低いためです。

4.ドイツで提起された訴訟の判決が、欧州の他の国の訴訟に与える影響について

法律的及び実務的な観点で回答します。
法律的観点:各国特許独立の原則に基づき、一般的に、ドイツで起こされた訴訟に対する判決は、他のヨーロッパの国での同じ訴訟に対する直接的な影響はありません。しかし、運用の調和を図るため、裁判官は他のヨーロッパの国での判決を考慮するように勧められています。
実務的観点: 各国ごとに訴訟をしていると双方の負担が大きいため、訴訟の当事者双方が協議し、全てのヨーロッパ諸国を対象国とする契約を結んで、殆どのケースが終了します。

5.欧州統一特許裁判所制度の導入について

2015年から欧州統一特許裁判所制度が始まる予定です。開始時期がたびたび遅れていますので、欧州統一特許裁判所のホームページで開始時期を確認して下さい。(註3)
 欧州統一特許に関連する裁判の結果は、全ての加盟国で有効となります。欧州統一特許裁判所の規則に基づく裁判は、特許侵害の疑いがある製品が販売されている、又は被告の居住地であるいずれかの地方/地域で裁判を起こすことができます(註4)。指定された地方/地域は、侵害訴訟の経験量に係らず、指定の裁判所となります。欧州統一特許裁判所の運用が開始された後は、少なくとも、経験が浅い裁判官によって侵害訴訟の手続が取られる可能性があります。
 欧州統一特許裁判所制度は、新設される欧州単一効特許(註5)(European patents with unitary effect)に適用されますが、既存の欧州特許及び欧州特許出願にも適用されます。
 既存の欧州特許に基づく訴訟に対しては、欧州統一特許裁判所制度は、施行年から7年間(今後延長される可能性もある)の移行期間を認めています。この移行期間においては、原告は侵害訴訟を欧州統一特許裁判所に提訴するか、指定国の内国裁判所に提訴することができます。この移行期間の運用をオプトアウト(opt-out)と呼びます。
 経験が浅い裁判官が手続する点などを考慮すると、既存の欧州特許を使った訴訟の際に、欧州統一特許裁判所からオプトアウトすることを検討する必要性があります。

参考情報
  • (註1)T1173/97 EP 91107112.4 International Business Machines Corporation
  • (註2)https://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/fips/epo/gec/chap4.htm
  • (註3)http://www.unified-patent-court.org
  • (註4)http://iprsupport-jpo.go.jp/joho/pdf/the_European_Unified_Patent_Court_2013.html
    24ページから43ページを参照 以下その概略
  • ★第一審裁判所

    第一審裁判所は中央部と地方部及び地域部で構成されます。
    ○地方部 (local division/division locale)
     各加盟25カ国に少なくとも一つ、扱う訴訟案件の多い国では最大三つ設置される。
    ○地域部 (regional division / division regionale)
     複数の加盟国が共同で設置する。
    ○中央部 (central division / division centrale)
     本部:パリ…産業技術、繊維、電子工学分野の案件を管轄 下記支部のIPC以外
     支部:ロンドン…化学、生命工学、冶金の案件を管轄 IPCクラス A,C
        ミュンヘン…機械・電気の分野の案件を管轄 IPCクラス F

    ★それぞれの部の管轄権は以下の通りです。

    ○地方部と地域部
     欧州特許と欧州単一効特許の侵害訴訟
     仮差止請求訴訟
     損害賠償請求訴訟
     先使用権確認請求訴訟
     ライセンスに関する訴訟
    ○中央部
     欧州特許と欧州単一効特許の無効審判請求訴訟
     非侵害の宣言請求訴訟

    ★控訴裁判所

    ルクセンブルグ

  • (註5)欧州単一効特許は、欧州統一特許とも呼ばれています。

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