侵Q53

当社は、A国で製品を製造し、ヨーロッパ(EU加盟国)を経由地としてB国に輸出します。A国及びB国では他社の特許権を侵害しませんが、EU加盟国では特許権があり、特許権侵害の可能性があります。A国からB国への輸出の際に、EU加盟国で税関の保税地域に製品が置かれたとき、特許権侵害に基づき押収の対象となりますか。

質問

当社は、A国で医薬品を製造し、ヨーロッパ(EU加盟国)を経由地としてB国に輸出し、B国で当該医薬品を販売します。当該医薬品はヨーロッパ市場では販売しません。当該医薬品は、A国及びB国では他社の特許権を侵害しませんが、EU加盟国では、他社の特許発明の技術的範囲に含まれると考えています。EU加盟国を経由するため、医薬品は一度EU加盟国の保税地域に置かれます。この場合、EU加盟国の特許権侵害となり、税関での押収の対象となりますか。

回答
  • 1. ご質問は、EU加盟国を経由地(トランジット)として、A国からB国へ輸出する場合のEU加盟国税関による押収がなされるか否かについてのものです。
    知的財産権の侵害の疑いがある物品に関して税関の対応を規定したものに、EU規則1383/2003(註1)があります。この規則では、知的財産権の侵害の疑いがある物品が、輸出あるいは再輸出のため保税地域に置かれたとき、知的財産権の侵害が疑われる場合には、税関当局は当該被疑物品を押収し、解放を停止します。押収は、権利者の各加盟国税関に対する申立てに基づいて、あるいは税関が職権で行うことができる旨が規定されています。
     この規定に基づいて、ベルギーの裁判所では、通過中の物品が知的財産権を侵害しているか否かを判断するに際して、その加盟国で製造された物品と仮定して判断し、知的財産権侵害により税関押収を認めた事件(フィリップス(Philips)事件(C-446/09))がありました。他方、イギリスの裁判所では、製品がEU域内の市場に置かれる見込みの立証がないため、税関で押収できないと判断した事件(ノキア(Nokia)事件(C-495/09))がありました。
     そこで、EU加盟国裁判所が欧州連合司法裁判所に先決判決(註2)を請求し、その先決判決が2011年12月に下されました。
     その先決判決を要約しますと、EU規則1383/2003は、問題となっている物品が、EU域内で販売されることを意図されていることを、知的財産権の権利者が証明しない限り、通過荷物に対する法的措置を講ずることができないと解釈されるべきとのことです。(註3:先決判決の結論の和訳)
     以上から、貴社がA国で医薬品を製造し、EU加盟国を経由地としてB国に輸出する場合に、EU加盟国の保税地域で税関により押収される可能性は低いと考えられます。

     なお、EU規則1383/2003は2013年の年末で廃止され、2014年1月1日から新規則(EU規則608/2013 註4)が施行されますが、新規則は水際取締りの対象となる知的財産権の範囲を拡大するだけで、税関当局による被疑物品の取締の基準は変わりません。そのため、新規則の施行後も上記先決判決の趣旨は有効であると考えられます。
  • 2. ご質問は、EU加盟国を経由地としてA国からB国へ輸出する例でした。仮に日本を経由地とする場合はどうなるかを説明します。
     日本の関税法第30条第2項及び同第65条の3の規定により、各知的財産権法において輸出も侵害行為となる知的財産権侵害物品については、保税地域に置くことができない貨物となります。従って、仮に日本にその医薬品の特許があれば、A国で医薬品を製造し、日本を経由地として保税地域に陸揚げされていれば、日本の領域内にあるものとして押収される可能性があります。

     EU加盟国及び日本が経由地になる場合を説明しました。特許権がある国を経由地として物品を運送する場合には、それぞれの国の専門家(弁護士、弁理士)とご相談することをお勧めします。
参考情報
  • (註1) 欧州知的財産ニュース(ジェトロ・デュッセルドルフセンター)
    http://www.jetro.go.jp/world/europe/ip/archive/pdf/news_003_3.pdf
  • (註2) 先決判決(References for preliminary rulings)とは、欧州法の効果的かつ統一的な適用の観点から、加盟国の国内裁判所が欧州法の解釈の確認、明確化の観点から欧州連合司法裁判所に照会し、欧州連合司法裁判所が下した意見をいいます。欧州連合司法裁判所によって、ある事項に対して先決判決がなされた場合には、照会を行った当該国裁判所が先決判決に従うだけでなく、他の加盟国においても同様の事項については拘束されます。
  • (註3) 先決判決文 2011年12月1日判決
    「特定の知的財産権の侵害が疑われる物品に対する税関の措置及び当該権利の侵害が認められた物品に対してとられるべき対策に関する2003年7月22日付欧州連合理事会規則(EC) No.1383/2003は次のとおり解釈されなければならない。
  • - 商標権によってEU域内で保護される製品の偽造であるか、あるいは、著作権、著作隣接権または意匠によってEU域内で保護される製品のコピーである、ある非EU加盟国から入ってきた製品は、解放の停止手続き(suspensive procedure)においてEU域内の税関に持ち込まれたという事実のみに基づいて、税関規則の意味における「模倣品」または「海賊版」には分類されない。
  • - 他方、それらの製品がEU域内での販売に供されることが意図されていることが特に証拠の提供によって証明される場合、それらの製品がEU域内で既に消費者に販売されたか、または、EU域内で消費者への販売に供されたか宣伝されたことが明らかにされる場合、もしくは、製品に関する書類または書簡からEUの消費者への流入が予想される場合においては、問題の権利を侵害している可能性があり、したがって「模倣品」または「海賊版」に分類される。
  • - 実質的な決定を行う権限のある当局が、根拠とする知的財産権の侵害を構成する証拠またはその他の要素の存在の有無を有意義に審査できるように、法的措置の申請を受けた税関当局は、税関当局に対してそのような侵害の存在を疑う根拠を与える兆候があれば直ちに、それらの製品の解放の中止または差し止めをしなければならない。
  • - その兆候は特に次の事項を含む。
  • ・ 要請された解放の停止手続きがその申告を必要とするにも関わらず、製品の送付先が申告されていないという事実
  • ・ 製品の製造者や委託者の身元や住所に関する正確又は信頼性のある情報の欠如
  • ・ 税関当局に対する協力の欠如
  • ・ 製品がEUの消費者へ流入する可能性であることを示す当該製品に関する書類または書簡の発見」

本QAは特許庁委託事業「外国産業財産権侵害対策等支援事業」において作成されたものです。
事業内容等は本事業サイト(http://www.jpo.go.jp/index/kokusai_doukou/iprsupport/index.html)をご確認下さい。