侵Q52

当社は電子楽器メーカーですが、中国で販売している電子楽器について、中国のメーカーがコピー品を作り、また、中国において意匠登録をしていることがわかりました。意匠権侵害として警告を受けるのではないかと心配です。どのような準備をしておいたらよいでしょうか。

質問

当社は電子楽器メーカーですが、中国のX社は、わが社が中国へ輸出している電子楽器と極めて似ている電子楽器の製造販売を始めました。また、さらに調べると、X社は同電子楽器のデザインについて意匠登録をしていることがわかりました。わが社のデザインがオリジナルなのに、このままではわが社が意匠権侵害として警告を受けるのではないかと心配です。どのような準備をしておいたらよいでしょうか。

回答

1.中国で意匠権侵害との警告書を受けた場合の選択肢

中国においての意匠権(中国では「外観設計専利権」と呼ばれます)の侵害事件であっても、我が国で起こった場合と同様、侵害警告を受けた者が選択できる対応は次の3つとなります。

  • (1)相手方の意匠権が無効であることの主張を行う。
  • (2)先使用など、相手方の意匠権が存続したとしても、それに対抗できる正当な理由を有することを主張する。
  • (3)相手方の意匠権にかかる意匠と、当方物品の意匠が異なることを主張する。

それぞれについて、以下、検討します。

2.登録無効の主張=無効宣告請求

中国においても、我が国の意匠登録に対する無効審判と同じように、意匠権を無効とするための無効宣告請求制度(中国専利法45条)が設けられています。

以前、中国は公用意匠の新規性について国内公知主義をとっていましたが、2009年の改正で公用意匠についても世界主義を採用するところとなりましたので、我が国において同じ意匠が実施されていたことを新規性欠如の理由とすることができるようになりました(「特許権を付与する意匠は、既存の設計に属さないものとする」「既存設計とは、出願日以前に国内外において公然知られた設計を指す」(同23条))。

新規性欠如の立証のためには、貴社が同楽器について日本で登録した意匠公報があれば、それを提出、もしくは発行年月日が明確な過去のカタログなどを証拠として提出することが望ましいでしょう。

無効宣告は、特許再審委員会に対して行い(同45条)、同委員会が決定を行います(同46条)。そして、相手方の登録意匠が新規性を欠いていることを立証し、無効宣告がなされれば、意匠権は初めから存在しなかったものと見なされることになります(同47条)。

3.正当な理由があることの主張=先使用の主張

中国においても、我が国の意匠法(日本意匠法29条)と同じく、先使用の規定を設けています(中国専利法69条)。

しかしながら、その内容は「次の状況に該当する場合は,特許権の侵害とみなさない。特許出願日前既に同一の製品を製造し,・・・既に製造,使用に必要な準備を成し終え,かつ従来の範囲内で製造,使用を継続する場合」と規定されており、輸入を含む実施に対して先使用権を認める我が国と異なり、先使用が認められるのは「製造、使用(方法特許の場合)」のみに限られています。

したがって、同楽器の実際の製造や組み立てを中国国内で行っている場合は、相手方の意匠登録出願日以前の製造開始日を立証できる書類を準備して、先使用を主張することができることとなりますが、もし、貴社が同楽器を日本から輸出しているだけであれば、中国での先使用を主張することはできませんので、ご注意ください。

なお、特許権に対する先使用の主張に関しては侵Q49に解説がありますので、参照ください。

4.非類似の主張

相手方が、貴社の楽器のデッドコピーではなく、ある程度デザインを一部変更した意匠を登録していた場合には、非類似の主張を行うことができます。

しかしながら、上述の無効宣告請求を行う場合は、その主張が弱まる場合がありますので、慎重な検討が必要です。

5.中国への輸出と意匠登録の課題

新たに中国へ商品を輸出する場合は、その商品が既存品であれば、すでに新規性を失っているので、中国で意匠登録を得ることはできません。しかしながら、中国の意匠登録は方式審査のみによって行われますので、悪意の第三者により貴社の意匠を模倣した意匠が意匠登録されてしまう可能性があり、さらに、その第三者が意匠権をもとにオリジナル意匠を権利侵害で訴えるという状況も生じます。理不尽ながらも、侵害の警告を受けた場合は、上述の対応をとらざるを得なくなります。

このうち、無効宣告請求を行う場合は、相手方の登録意匠に新規性がないことを立証する証拠が必要となります。我が国で意匠登録を得ている場合は意匠公報が発行されますから、意匠の公開日などについて、意匠公報が高い証拠能力を有することとなります。我が国で意匠登録出願を行うことは、中国においても無効な意匠登録を排除する手段となりますので、その活用を考えてみる必要があるでしょう。

また、我が国に意匠登録出願を行ったのち、意匠公報が発行されるまで平均10か月程度かかります。それ以前に、商品を中国へ輸出する必要があり、第三者によって中国で模倣意匠について出願される危険性がある場合には、日本への意匠登録出願を基礎として、優先権を主張した中国出願を行うことも有効です。中国においても、意匠登録出願については我が国の意匠出願日から6箇月の優先権が認められています(中国専利法29条)。

本QAは特許庁委託事業「外国産業財産権侵害対策等支援事業」において作成されたものです。
事業内容等は本事業サイト(http://www.jpo.go.jp/index/kokusai_doukou/iprsupport/index.html)をご確認下さい。