侵Q49

中国で事業をしています。その当社に対して中国の発明専利権(特許権)による侵害警告を受けました。その事業は発明専利の出願前から中国で実施しています。対応を教えて下さい。

質問

当社(A社)は自動車部品メーカーであり、中国で自動車部品を製造している中国のB社と合弁で中国にC社を2005年4月に設立しました。当社は、2010年4月にB社の持分を全て承継し、C社は当社全額出資の企業として生産規模を拡大して自動車ダンパーを製造しています。
 その後、C社は中国で発明専利を有するというX社から、自動車ダンパーの製造方法に関する発明専利権(特許権)の侵害警告を受けました。その専利権は、2009年10月の出願でした。発明専利の技術的範囲は、C社が2005年4月から製造していた自動車ダンパーです。どのように対応すべきか教えて下さい。

回答

1.貴社(A社)の子会社C社の製造する自動車ダンパーの製造方法が権利侵害するかの検討

最初に、貴社はX社の専利権の内容を確認しましょう。中国専利法第59条第1項で規定されています。この条項に基づいて、発明専利の権利解釈の指針も、人民法院から示されています(詳細は侵Q48を参照。)。これらの規定に基づいて、C社の製造する自動車ダンパーが専利権を侵害するかを検討してください。

言葉の問題もありますから、中国専門家(中国弁護士・中国弁理士)の意見も聞いて、確認をとっておくことが重要です。

さて、C社の製造する自動車ダンパーの製造方法が、X社の発明専利の技術的範囲に属するとしても、ご質問から、C社は先使用権を主張できる可能性があり、先使用権が主張できれば、C社は現在の自動車ダンパーを製造し続けることができる可能性があります。

2.中国専利法下の先使用に関して

先使用とは、先願者の出願時以前から、独立して同一内容の発明を完成させ、さらに、その発明の実施である事業をしている者に、実施を継続して認める制度です。中国では、中国専利法第69条第2項で以下のように規定しています。なお、日本における、先使用権(日本特許法第79条)は、侵Q31を参照ください。

「第69条以下の状況のいずれかがある場合は特許権侵害とは見なさない。
第2項 専利出願日以前に同様の製品を製造した場合、又は同様の方法を使用するか、あるいは既に製造と使用の必要準備を終えており、かつ元の範囲内だけで引き続き製造、使用する場合。」

また、“最高人民法院による専利権侵害をめぐる紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈”(法釈[2009]21号:以下“法釈”と言います。)にて、専利法第69条第2項を補足する規定(第15条)があります(註1)。

この第15条の規定から、先使用が認められるためには、以下の要件((1)~(5))が必要と思われます。

  • (1)特許技術と同じ技術を実施していること、又は実施のための準備を行っていること。ここで実施とは、同じ製品の製造、又は同じ方法を使用する行為に限られます。同じ製品の輸入、販売許諾、販売、使用は含まれません。
  • (2)実施又は実施の準備は出願日までに行われていること。ここで、X社の専利権に優先権がある場合には、優先日までに実施、準備が行われていなければなりません(註2)。
  • (3)先使用行為が不法獲得した技術若しくは設計で行われていないこと。すなわち、出願日までに自分で研究開発した技術か又は合法的な手段で取得した技術により行われていなければなりません。
  • (4)実施できる範囲は、専利法第69条に「元の範囲内」とあり、法釈では、「元の範囲内」とは「専利出願日以前にあった生産規模、および既存の生産設備を利用し若しくは既存の生産準備状況により達成できるような生産規模」であると示されています。この点、日本の先使用権とは異なります。日本特許法第79条では、「事業の目的の範囲内」で生産できるため、工場を拡張して生産を増やすことは認められると解されています。一方、中国専利法下の先使用は、元の生産能力までしか認められません。
  • (5)専利出願日以降に、先使用権者が既に実施している若しくは実施の必要準備を済ませている技術又は設計のみを譲渡しても先使用は認められませんが、出願日以降であっても該技術又は設計が従来の事業とともに譲渡される場合は先使用が認められます。

3.C社の自動車ダンパーを製造する行為は、権利侵害にならないか。

C社は2005年4月から自動車ダンパーを製造していました。特許技術と同じ技術をX社の専利出願前から実施していたことになります。上記(1)、(2)要件を満たしていると考えられます。

また、貴社のご質問からは明確ではありませんが、C社が独自に開発した製造技術であれば、上記(3)要件を満たしていると考えられます。C社が独自に製造方法を開発したことを裏付ける資料が確保されているか確認してください。

さらに、C社は、貴社が2010年4月にB社の持分を承継した以降も、自動車ダンパーを製造していますから、上記(5)要件を満たしていると考えられます。

さて、C社は、生産規模を拡大して自動車ダンパーを製造しているとのことです。専利出願時点(2009年10月)の生産規模を超えていますと、上記(4)要件を満たさないことになります。仮に、専利出願時点(2009年10月)の生産規模が月産1万台であったが、当時は月産5千台の生産をしていたとしますと、現在の生産規模が月産1万台であれば先使用を主張できます。しかし、専利出願以降に新たな製造装置を追加して、現在の生産規模が月産2万台になるという場合には、先使用を主張できなくなります。

先使用を主張するには、C社が独自に製造方法を開発したことを立証しなくてはなりませんし、また、生産規模を超えているか否かの判断も、専利出願時点(2009年10月)の生産設備から立証しなければなりません。これらの判断は、大変難しいので、中国専門家からアドバイスを得て、対応された方がよいと思われます。

参考情報
  • (註1)JETRO 中国 知的財産に関する情報
    http://www.jetro.go.jp/world/asia/cn/ip/law/interpret.html
  • (註2)「中国専利法実施細則 第十一条 専利法第二十八条及び第四十二条に規定する状況を除き、専利法に言う出願日とは、優先権を有するものについては優先権日を指す。」という規定があり、専利法第69条第2項は除かれていません。このため、専利権が優先権を伴う場合には、優先権日で判断する必要があります。

本QAは特許庁委託事業「外国産業財産権侵害対策等支援事業」において作成されたものです。
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