侵Q48

中国で事業をしています。その当社に対して中国専利権(特許権)による侵害警告を受けました。相手の企業は、発明専利の技術的範囲に属すると主張しています。中国法下での発明専利の権利解釈に関して教えて下さい。

質問

当社の子会社である中国法人(X社)は中国で照明器具A、照明器具B及び照明器具Cを製造しています。X社は中国で発明専利権(特許権)を有するというY社から、X社が製造・販売する照明器具がY社の専利権(特許権)を侵害しているとの警告を受けました。その専利権に関して、X社の器具が本当にY社の侵害するのか、疑念が生じます。中国の発明専利の権利解釈に関して教えて下さい。

回答

侵害判断は、公開公報ではなく特許公報で検討する必要があります。しかし特許公報を検討するだけでなく、どのように権利化されたかを確認することも重要です。最初に、Y社の専利権の権利化までの経緯を確認しましょう。

1.Y社の専利権の取得までの経緯

Y社の発明専利は、出願時点で、請求項1から請求項3までを有していました。

「【請求項1】 酸化○◇の材料を含むLED光源と、このLED光源に接続されるコンデンサと、このLED光源とこのコンデンサとを配置する基板と、を有する照明器具。
【請求項2】 前記LED光源は、さらに窒化△□の材料を含む請求項1の照明器具。
【請求項3】 さらに前記基板に取り付けられLED光源からの熱を伝熱する伝熱板を有する請求項1又は請求項2の照明器具。」

その後、進歩性が無いという拒絶理由を受け、以下のような請求項1に補正して、登録されています。

「【請求項1】 酸化○◇と窒化△□との材料を含むLED光源と、このLED光源に接続されるコンデンサと、このLED光源とこのコンデンサとを配置する基板と、この基板に取り付けられLED光源からの熱を伝熱する伝熱板とを有する照明器具。」

つまり、出願時点の請求項1に出願時点の請求項2及び請求項3の内容が加わって、請求項1の発明専利となったことがわかりました。

2.X社の照明器具A~照明器具C

お聞きした内容をまとめますと、照明器具A~照明器具Cは以下のようになります。

照明器具A:
照明器具Aは、酸化○◇の材料のみを含むLED光源と、このLED光源に接続されるコンデンサと、このLED光源とこのコンデンサとを配置する基板と、この基板に取り付けられLED光源からの熱を放熱する放熱板と、を有しています。
照明器具B:
照明器具Bは、酸化○◇と窒化△□との材料を含むLED光源と、このLED光源に接続されるコンデンサと、このLED光源とこのコンデンサとを配置する基板と、この基板に取り付けられLED光源からの熱を放熱する放熱板と、を有しています。
照明器具C:
照明器具Cは、炭化○◇と窒化△□との材料を含むLED光源と、このLED光源に接続されるコンデンサと、このLED光源とこのコンデンサとを配置する基板と、この基板に取り付けられLED光源からの熱を放熱する放熱板と、を有しています。

3.中国専利権の権利解釈

日本の特許法第70条と同様な規定が専利法にあります。

「第59条第1項 発明又は実用新案専利権の権利範囲は、その請求項の内容を基準とし、明細書及び図面は請求項の内容の解釈に用いることができる。」

また、“最高人民法院による専利権侵害をめぐる紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈”(法釈[2009]21号:以下“法釈”と言います。)にて、発明専利の権利解釈の指針が複数示されています(註1)。代表的な指針を以下に示します。

  • 第1条第1項 人民法院は、権利者が主張する請求項を基に、特許法59条1項の規定に従って専利権の保護範囲を確定するものとする。
  • 第2条 人民法院は、請求項の記載に基づき、明細書および図面を読み終えた当該分野の一般的な技術者が持っている請求項に対する理解と結び付けた上で、専利法59条1項に定めた請求項の内容を確定するものとする。
  • 第3条 人民法院は明細書や図面、特許請求の範囲における該当の請求項及び専利審査書類を用いて請求項を解釈することができる。明細書において請求項の用語について特別に定義されている場合には、その特別定義に従う。請求項の意味は、上述した方法を用いても明確にならない場合、参考書や教科書などの公知文献、および当該分野の一般的な技術者が持っている一般的な理解と結び付けて解釈することができる。
  • 第4条 請求項において機能若しくは効果を以って記載された技術的特徴について、裁判所は明細書および図面に記述された当該機能若しくは効果の具体的な実施形態、及びそれと同等の実施形態と結び付けた上で、当該技術的特徴の内容を確定しなければならない。
  • 第5条 明細書若しくは図面のみにおいて記述され、請求項においては記載されていない技術方案について、専利権侵害をめぐる紛争案件の際に権利者がそれを専利権の保護範囲に取り入れる場合、人民法院はこれを支持しない。(註2)
  • 第6条 専利権の付与、若しくは無効宣告手続において、専利出願人や専利権者が請求項や明細書の修正、若しくは意見陳述を通して放棄した技術方案を、権利者が専利権侵害をめぐる紛争案件で改めて専利権の保護範囲に取り入れた場合には、人民法院はこれを支持しない。
  • 第7条第1項 権利侵害で訴えられた技術方案が専利権の保護範囲に入っているかを判断する際に、人民法院は権利者が主張した請求項に記載された全ての技術的特徴を審査しなければならない。

4.請求項1の発明専利と、照明器具A~照明器具Cとの比較

Y社の請求項1の発明専利とX社の照明器具とを比較した一覧が以下の通りです。

Y社 請求項1X社 照明器具AX社 照明器具BX社 照明器具C
酸化○◇と窒化△□酸化○◇のみ酸化○◇と窒化△□炭化○◇と窒化△□
コンデンサコンデンサコンデンサコンデンサ
基板基板基板基板
熱を伝熱する伝熱板熱を放熱する放熱板熱を放熱する放熱板熱を放熱する放熱板

まず、専利法59条第1項に従い、発明専利の権利範囲は、その請求項の内容を基準とします。そして、法釈第1条第1項及び第7条第1項に従い、請求項に記載された全ての技術的特徴を検討します。

最初に、照明器具Aを検討してみましょう。

照明器具Aは、“酸化○◇の材料のみを含むLED光源”を有しています。法釈第7条第1項に従いますと、請求項1の発明専利は、“酸化○◇と窒化△□との材料を含むLED光源”を要件としています。このため、照明器具Aは、請求項1の保護範囲ではありません。また、出願時点の請求項1では照明器具Aは保護範囲であったかもしれませんが、法釈第6条からも、照明器具Aは、請求項1の保護範囲ではありません。

次に、照明器具Bを検討してみましょう。

請求項1の発明専利と照明器具Bとを比較しますと、発明専利は“基板に取り付けられたLED光源からの熱を伝熱する伝熱板”の要件であるのに対して、照明器具Bは“この基板に取り付けられLED光源からの熱を放熱する放熱板”です。両者は、“伝熱”と“放熱”という点で文言では異なっています。これが同じ要件であるのか異なる要件であるのかは、法釈第2条、第3条及び第4条にしたがって解釈する必要があります。

最後に、照明器具Cを検討してみましょう。

照明器具Cは、“炭化○◇と窒化△□との材料を含むLED光源”を有しています。請求項1の発明専利は、“酸化○◇と窒化△□との材料を含むLED光源”を要件としています。このため、照明器具Cは、請求項1の保護範囲ではありません。仮に、“炭化○◇と窒化△□との材料を含むLED光源”が特許明細書又は図面に記載されていたとしても、法釈第5条から、保護範囲に入ることはありません。

以上、簡単に説明してきましたが、X社の照明器具がY社の専利権を侵害するか否かは、均等論(註3)なども考慮する必要があります。また、言葉の問題もありますから、中国専門家(中国弁護士・中国弁理士)からも意見を聞いて判断してください。

参考情報
  • (註1)JETRO 中国 知的財産に関する情報
    http://www.jetro.go.jp/world/asia/cn/ip/law/interpret.html
  • (註2)技術方案とは、審査指南第一部分第二章6.3で次のように定義されています。「専利法2条3項にいう技術方案とは、解決しようとする技術的問題について採用する自然法則を生かした技術的手段の集合を指す。」
  • (註3)均等論とは、一定の要件のもとで発明専利の技術的範囲(特許権の保護範囲が及ぶ範囲)を拡張することを認める理論。

本QAは特許庁委託事業「外国産業財産権侵害対策等支援事業」において作成されたものです。
事業内容等は本事業サイト(http://www.jpo.go.jp/index/kokusai_doukou/iprsupport/index.html)をご確認下さい。