侵Q46

当社は国内で自動車用部品を作っていますが、ヨーロッパの自動車会社との取引を開始しました。外国、特にヨーロッパ、米国での意匠出願の方法を教えて下さい。

質問

当社はいままで国内の自動車メーカーに対し、自動車用部品を納品してきましたが、一部汎用部品について、ヨーロッパの自動車メーカーから引き合いがきました。今後、ヨーロッパや米国のメーカーに対して製品を売り込みたいと思っていますが、その前に意匠登録を行いたいと思っています。

これらの国での意匠出願について、注意点を教えてください。また、特許や商標の国際出願制度のように、一度に多数の国を指定できる、効率的な出願制度が意匠には存在しないのでしょうか。

回答

1.ヨーロッパにおける意匠の保護

  • (1)各国意匠制度とヨーロッパ意匠制度の二重構造

    ヨーロッパには、各国意匠制度とヨーロッパ意匠(Community Design:CD)制度が二重に存在します。よって、出願人は各国ごとに意匠登録を行うか、ヨーロッパ意匠登録を行うか、のいずれかを選択することになります。日本の企業がヨーロッパにおいて意匠権を取得しようとするならば、特別な理由(例えばその国でしか製品の販売を行わないなど)がない限り、ヨーロッパ意匠出願を行うことをお勧めします。

    各国意匠制度を用いて複数国にまたがる意匠権を取得しようとすれば、個別の国で代理人を立てて意匠権を取得する手間と費用が必要であるのに対して、ヨーロッパ意匠制度は欧州商標意匠庁(OHIM)にEU域内の代理人を介して出願してもらえば一出願で足り、登録されればEU域内(現在、27か国が加盟)に権利が及ぶこととなるからです。欧州特許庁での審査後、各国において権利取得手続きが必要なヨーロッパ特許(EP)制度と異なり、欧州商標意匠庁で登録されれば自動的に全EU域内で権利が発生するという点も魅力です。

  • (2)ヨーロッパ制度の特徴(註1)

    ヨーロッパ意匠制度は我が国の意匠制度や他の国の意匠制度と比べて、次のような特徴点を有しています。

    • 1)意匠の保護期間は25年である。

      5年毎の更新が必要ですが、出願時から最長25年の保護が認められます。我が国の登録日から20年という保護期間に比べても長い保護期間を有します。

    • 2)部分意匠が認められる。

      我が国の意匠制度と同様に、物理的に分離できない物品の部分であっても、その意匠が認められます。我が国で出願した部分意匠を基礎に出願する場合でも、全体意匠の出願に変更する必要はありません。

    • 3)多意匠出願が認められる。

      複数の意匠を一出願に包括させる出願が可能です。出願時に必要なオフィシャルフィーは図面数によって割増されるので、劇的なコスト削減にはなりませんが、意匠の複数のバリエーションを登録する場合には考慮するとよいでしょう。

    • 4)登録は無審査で行われる。

      図面や物品についての方式要件が判断されますが、新規性や自明性など実体的な登録要件は審査されません。権利行使の際にその有効性が議論されることとなります。

    • 5)意匠登録を受ければ、自動的に域内すべての国で権利が発生する。

      現在、EU加盟国は27か国です(註2)。 ヨーロッパ特許制度(EP)では、ヨーロッパ特許庁での審査後、各国において権利取得手続きが必要とされますが、ヨーロッパ意匠制度では欧州商標意匠庁での登録がなされた時点で、自動的に域内すべてで意匠権が発生します。

    • 6)意匠権の行使は登録時に出願した物品を超えて行うことができる。

      「出願時の物品の記載は意匠権の行使を限定しない」とのルールがあるため、形状が全く同じであれば、例えば、自動車の意匠登録により、ミニカーにも権利行使することができます。

    • 7)ロゴマークも意匠登録できる。

      日本、米国、さらに中国や韓国などで「意匠」の定義に入らない、ロゴマークなどそれ自体機能を有さない平面的なデザインも保護対象となります。

    • 8)市場に流通する際に外側に露出しない部品は登録を受けることができない。

      機械の内部に使用される部品については、市場において需要者による意匠の選択機能を発揮しないとして登録を受けることができません。このルールは、例えば交換部品として取引される、という理由によっても覆りません。今回の相談は自動車部品とのことですが、例えばブレーキパッドや排気管部品などである場合は登録を受けられない可能性があります。

    • 9)補修部品、すなわちスペアパーツについても登録が認められない。

      スペアパーツも、登録ができません。例えば、自動車本体は登録の対象ですが、外部に現れる自動車部品であっても、例えばヘッドライトやフロントグリルなど本体の形状によって形が決まる(Must-Fitという)交換部品については、それら交換部品に意匠権が発生することによっての修理部品において競争制限が生じることは望ましくないとの考え方から採用されたルールです。もっとも、自動車のパーツといっても、別売りパーツとして、オプションで追加される、または別のものと交換される可能性のあるパーツ、例えばタイヤホイールや屋根につける荷台などはスペアパーツと言えません。日本の代理人を通じて、現地の代理人に相談してみるのがよいでしょう。

2.米国における意匠の保護

  • (1)特許法による保護

    米国には独立した意匠制度法が存在しません。意匠は特許法によりデザインパテントとして保護されます。しかし、原則として、その保護制度は我が国などの意匠の保護制度と大きな相違はありません(註3)。

  • (2)米国制度の特徴
    • 1)権利の保護期間は登録日から14年である。

      登録日から14年の保護期間が与えられます。上述のように意匠は特許法で保護されますが、通常の特許が有する出願日から20年という保護期間に比べて短く設定されています。

    • 2)先行技術の開示義務(IDS)に注意する必要がある。

      通常の特許と同じように、先行技術の開示義務が課されます。例えば、自らの先行意匠が存在した場合など、出願人が、出願意匠と類似した先行意匠の存在を知っていた場合は、その開示を行わなければなりません。この開示を怠った場合は、権利行使ができなくなる可能性があります。

    • 3)部分意匠が認められる。

      米国では、我が国が部分意匠を導入した平成18年以前より、物品の部分の登録を認めていました。ヨーロッパ意匠制度と同じく、我が国で出願した部分意匠を基礎として出願する場合でも、全体意匠の出願に変更する必要はありません。

    • 4)実体審査が行われる。

      特許と同様に、出願後自動的に、新規性や進歩性について実体審査が行われます。拒絶理由が発せられた場合は、先行意匠との類否などについて対応する必要が生じます。

    • 5)図面について厳格な作図水準が要求される。

      作図表現について審査マニュアルに細かな規則(意匠一般についてMPEP1500、図面についてMPEP608.02)があります。ヨーロッパ意匠出願に求められる作図表現に比べると、極めて高いレベルが求められます。日本の意匠出願に用いた図面であっても、補正が求められる場合があります。

3.意匠の国際出願制度

特許のPCT、商標のマドリットプロトコル(マドプロ)と同じように、意匠にも国際保護制度を規定したヘーグ協定が存在します(註4)。 ヘーグ協定は1925年に無審査主義を採用する主としてヨーロッパ諸国が加盟する条約でしたが、1999年に改正されたジュネーブアクトによって審査主義国も利用できる制度となりました。

このヘーグ協定は、登録が各国特許庁で行われる特許のPCTや、本国出願が要求される商標のマドリットプロトコルと異なり、WIPOの国際事務局が登録を行い、その効果を各国が認めるという、より集中管理方式に近い制度となっていることが特徴です。

残念ながら、我が国をはじめ、米国、中国、韓国といった審査主義国は、2011年現在、未だ加盟していません。しかし、単一の出願で複数国の意匠権が取得できるとなれば、出願人にとってのメリットが大きいため、我が国も加盟の準備を始めています。2~3年以内に導入される可能性があります。韓国は日本と同様に加盟準備中ですが、中国、米国は加盟の予定はありません。

参考情報

本QAは特許庁委託事業「外国産業財産権侵害対策等支援事業」において作成されたものです。
事業内容、免責事項等は本事業サイト(http://www.iprsupport-jpo.go.jp/)をご確認下さい。