侵Q42

当社は、食品メーカから依頼を受けて、食品メーカの製品チェックを受けながらその食品の製造に適した製造装置を開発しました。その後、その食品メーカがその食品の製造方法を単独で特許出願し、特許権を取得していることに気付きました。製造装置の調整は当社がいろいろ試行錯誤した結果です。その特許権を当社に取り戻すことはできませんか。

質問

当社は、おにぎりの自動製造装置を開発及び製造しています。おにぎりを販売する食品メーカから、“ある具材”をおにぎりに入れる自動製造装置を作ってほしいと依頼を受けました。食品メーカの担当者が“ある具材”を持ち込んで、当社が開発した製造装置をいろいろ調整しながら、その担当者に具材が入ったおにぎりの出来具合をチェックしていただきました。“ある具材”の温度及びごはんの蒸らし温度を調整した結果、その担当者から合格をいただきました。

ところが、それから約2年後に、その食品メーカが“ある具材”の温度、ごはんの蒸らし温度を要件とするおにぎりの製造方法の特許を取得していることに気付きました。当社の長年の経験で、温度をいろいろ調整したにも関わらず、勝手に特許権を取得していることに承服できません。何とか特許権を当社に取り戻すことはできませんか。

回答

他人の発明について正当な権原を有しない者が特許出願人となっている出願は、冒認出願と呼ばれています。正当な権原を有しない者とは、発明者でもなく、発明者から特許を受ける権利を承継した者でもない者です。仮に、食品メーカの担当者も発明の完成に協力したのであれば、特許を受ける権利は共有になり、食品メーカと貴社とが共同出願しなければなりません(特許法第38条)。

このような冒認出願又は共同出願違反は、拒絶理由に該当しますし(特許法第49条第2号、第7号)、特許無効理由にも該当します(特許法第123条第1項第2号、第6号)。

ご質問では、すでに食品メーカが権利取得されているようですので、貴社に特許権を移転するには、食品メーカと交渉をして食品メーカから真の権利者である貴社への全部又は一部の権利の譲渡証書を得る必要があります。全部の権利の譲渡証書の書面を添付して、特許庁に特許権移転届の申請を行うことで、貴社は特許権を取得することができます。又は一部の権利の譲渡証書の書面を添付して、特許庁に特許権移転届の申請を行うことで、貴社と食品メーカとは特許権を共有することができます。

食品メーカとの交渉がうまくいかず、権利譲渡の契約に至らなかった場合には、貴社は無効審判を請求することが可能ですが、無効審判で勝っても、無効の審決が確定すると、特許権が登録時に遡及してなくなってしまうだけで、特許権を取り戻すことはできません。

これまでの裁判例では、特許権の取得後、真の権利者への特許権の移転請求は認められていませんでした(東京地裁平成14年7月17日判決(平成13年(ワ)第13678 号))。

例外的に、真の権利者が自ら出願している場合に、移転請求が認められる事件があるにすぎませんでした(最高裁平成13年6月12日第三小法廷判決(平成9 年(オ)第1918 号))。

冒認出願又は共同出願違反が発生しやすい状況になってきているにもかかわらず、真の権利者の救済が十分でないとの理由で、平成23年に法改正が行われました。この法改正により、真の権利者が特許権者に対して、特許権の移転を請求することができるようになりました(特許法第74条。平成24年4月1日施行 Q3も参照)。

この特許権の移転請求は、「特許法第74条第1項の規定による請求に基づく特許権移転登録申請書」を特許庁に提出します。申請書には特許権の移転を証明する書面を添付する必要があります。証明する書面として、裁判所における特許権の移転登録手続を命じる内容の判決正本を添付します。また裁判所において和解による終結の場合には、判決正本に代わるものとして、移転を命じる内容が記載された和解調書の正本を添付します。

なお、食品メーカである特許権者が冒認出願又は共同出願違反であったこと、又は貴社が真の権利者があることを立証するのかといった問題があります。この冒認出願又は共同出願違反であることの立証責任は、特許権者が負うべきと考えられています(知財高裁平成18年1月18日判決(平成17年(行ケ)第10193号))。つまり、特許権者が、冒認出願でないことを立証する義務があると考えられています。

さて、今後、別の食品メーカからおにぎりの自動製造装置の開発を依頼されて、再び同じようなことが起こるかもしれません。また、今回のケースでも事前に、共同開発契約等を結んでいれば、食品メーカ単独の特許出願自体もなかったかもしれません。このため、食品メーカから依頼されておにぎりの自動製造装置を開発する際や、食品メーカの担当者が立ち会って自動製造装置を評価する場合には、共同開発契約等の契約書を交わすことが好ましいです。後々、共同発明者であるか否か判断が困難なことがありますので、契約書等をできるだけ準備することが必要と思われます。なお、どのような場合に共同発明者にするかを決定する際には、特許庁のウェブサイトに「日本における発明者の決定」という資料(学説及び判例をまとめた資料)(註1)をご参考にするとよいと思います。

この資料に記載されているように、食品メーカから自動製造装置の開発資金が出ている場合であっても、一律に、特許を受ける権利が食品メーカに譲渡されるわけではありません。共同開発契約においては、食品メーカの役割分担と貴社の役割分担とを明確にするとともに、共同特許出願の対象となる開発成果と、それ以外の開発成果(「ノウハウ」又は「失敗例」)の帰属についてきちんと定めることが好ましいです。なお、一方が不当に不利益を被るような共同開発契約に関しては、独占禁止法に違反することがあります(註2)。今後、冒認出願などが起こらないように、専門家と相談して共同開発契約等を作成することをお勧めします。

参考情報

本QAは特許庁委託事業「外国産業財産権侵害対策等支援事業」において作成されたものです。
事業内容、免責事項等は本事業サイト(http://www.iprsupport-jpo.go.jp/)をご確認下さい。