侵Q40

当社は中国で製品及びその消耗部品を販売しており、その製品の中国特許権も取得しています。製品を買った顧客はその消耗部品を中国国内メーカから入手しているようです。その消耗部品は中国特許発明の一部であり、当社の特許製品にしか使用できない専用品です。製造会社による消耗部品の製造を差止めることはできませんか。

質問

当社は、プリント基板に回路を露光する露光装置を販売しています。露光装置は紫外線ランプを使用してプリント基板に回路を作ります。プリント基板の品質を高めるため、当社の露光装置にしか取り付けられない紫外線ランプを、消耗部品として顧客Yに販売しています。先日、この紫外線ランプを使った露光装置の発明が、中国で特許になりました。中国国内において露光装置の販売は順調に伸びていますが、顧客Yから消耗部品である紫外線ランプの注文がありません。調べてみますと、当社の露光装置にのみに使用できる紫外線ランプを製造している製造会社Zが中国国内にあることがわかりました。

この製造会社Zに対して紫外線ランプの製造・販売を差し止めることはできませんか。

回答

日本では、昭和34年改正法で間接侵害の規定(特許法第101条)が加えられました。さらに、平成15年に間接侵害の適用範囲を、「専用品」だけでなく「中性品」にも広げる法改正が行われました(侵Q32を参照)。「中性品」の間接侵害には侵害者の主観的要件が必要ですが、「専用品」には主観的要件は不要です。

中国においては、日本特許法第68条(特許権の効力)、第70条(特許発明の技術的範囲)に相当する規定(註1)があるだけです。つまり中国特許法では直接侵害しか規定されておらず、中国特許法には日本特許法第101条に相当する規定がありません。

しかしながら、2016年4月1日に施行された最高人民法院による「専利権侵害をめぐる紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈(二)」(註2)、(以下、法釈(2016)1号と呼びます。)で、間接侵害が規定されました。法釈は中国全土に法的効力を有します。

貴社は、中国において、露光装置の特許発明を取得していますが、専用品である「紫外線ランプ」の特許発明を有していません。このため、貴社は間接侵害で権利侵害を訴えざるを得ません。

法釈(2016)1号の第21条第1項では、「関連する製品が専利の実施に用いられる材料、設備、部品、中間物などであることを明らかに知っているにもかかわらず、生産・経営の目的で、当該製品を第三者に提供して専利権侵害行為を実施させ、当該提供者の行為が侵権責任法(以下、権利侵害責任法と呼びます)第9条に定められた、他人による侵害の援助を幇助する行為に該当すると権利者が主張した場合、人民法院は支持しなければならない。」と規定されています。

貴社がこの規定を適用させて、製造会社Zに対して間接侵害を主張するには、次の3ステップが必要です。

まず、貴社が、中国の製造会社Zが自ら製造する「紫外線ランプ」が露光装置の発明の「部品」であることを「明らかに知っている」ということを立証する必要があります。中国に日本の内容証明郵便の類がないため、証明する方法として、例えば郵便物の公証、郵便局が発行する郵便物受領済み証明の取得、控え付きバイク便、国際郵便(EMS)の利用等を個別又は併用して、「明らかに知っている」ということを証明することになると考えられます。

次に、貴社が、中国の製造会社Zが「生産・経営の目的」で、「紫外線ランプ」を貴社の顧客Yに提供していることを立証することが必要です。「紫外線ランプ」である専利権侵害行為を実施させていることは、貴社の顧客Yから購入数量等が得られれば、比較的容易に立証できると思います。

最後に、貴社は、「当該提供者の行為が権利侵害責任法第9条に定められた、他人による侵害の援助を幇助する行為に該当する」ということを立証します。この権利侵害責任法は、2010年7月に施行されました。

その権利侵害責任法の第9条第1項では「他人による権利侵害行為を教唆、幇助した場合、行為者と連帯責任を負わなければならない。」と規定されています。このため、共同侵害の法理で、間接侵害が認められることになります(註3)。教唆・幇助の要件として、他人の合法的な権利を侵害したと明確に知っているということが課されています。専用品である「紫外線ランプ」であっても、貴社「紫外線ランプ」が貴社の露光装置に適用できる等が取扱説明書に記載されていることで他人の合法的な権利を侵害したと明確に知っていることを証明することになります。

なお、権利侵害責任法の第13条では「法律において連帯責任を負うことが規定されている場合、被権利侵害者は一部または全ての連帯責任者に対して責任を負うことを請求する権利を有する。」と規定されているため、間接侵害者のみを被告とすることができます。

以上の点を考慮して、現地の専門家とよく相談した上で、裁判等を検討してください。但し、中国の裁判所で勝ってもその判決を日本国内で執行しようとすると、以下の点も問題になります。

外国裁判所の判決を日本国内で執行するためには、まず、民事訴訟法第118条の定める外国判決の承認要件(外国裁判所の確定判決であって、①法令条約による裁判権、②被告への送達、③公序良俗、④相互保証の各要件)を満たすものとして、民事執行法第24条に基づく執行判決を得る必要があります。ところが、日中間には、承認・執行の2国間協定が締結されていません。大連市中級人民法院1994年11月15日判決において日本の判決は中国では承認、執行されないと判断され、その結果、大阪高裁平成15年4月9日判決により、中国の判決は日本では民事訴訟法第118条第4号の相互保証要件を欠くため執行できないと判断されています。なお、これに対して、国際仲裁は、ニューヨーク条約(外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約。日本は1961年に加盟)により、日中間でも国際的執行力が保証されています。従って、日中間の知財紛争については、日本知的財産仲裁センター(JIPAC)の仲裁により最終的に解決する旨の仲裁合意条項を契約書に盛り込むことをお勧めします。

今後の対応になりますが、中国特許法が間接侵害の規定を有していないことを前提に、中国で特許権を取得することをお勧めします。つまり、貴社の露光装置に使われる消耗部品である「紫外線ランプ」が、貴社の製品にのみ使用されるのであれば、製品の特許だけでなく、その製品に使われる消耗部品の特許も取得するのです。製品の発明と消耗部品の発明との技術的特徴が共通するのであれば、1出願で権利化(註4)を図ることも可能です。

また、間接侵害の予防策として、「紫外線ランプ」を露光装置に接続する接続部分を特殊な形状にして、「紫外線ランプ」の意匠権を取得することも有効な手段であると思われます。

参考情報
  • (註1)中国特許法 第十一条
    発明及び実用新案の特許権が付与された後、本法に別途規定がある場合を除き、いかなる部門又は個人も、特許権者の許諾を受けずにその特許を実施してはならない。同法 第五十九条 発明又は実用新案の特許権の保護範囲は、その権利要求の内容を基準とし、説明書及び付属図面は権利要求の解釈に用いることができる。
  • (註2)JETROの法釈(2016)1号
    https://www.jetro.go.jp/world/asia/cn/ip/law/interpret.html
  • (註3)最高人民法院による『中華人民共和国民法通則』の貫徹執行に関する若干問題の意見(試行) 第148 条に規定した内容を更に明確したものと考えられています。
  • (註4)中国特許法第三十一条第2項
    一つの全体的な発明構想の二つ以上の発明又は実用新案は、一件の出願として提出することができます。

本QAは特許庁委託事業「外国産業財産権侵害対策等支援事業」において作成されたものです。
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