侵Q37

ビジネスショーで新製品を発表したところ、意匠権を侵害しているとの警告書を受けました。警告会社の製品は業界のベストセラーで、当社も参考にはしましたが、多くの外観の相違点を有しています。それでも類似している、と言えるのでしょうか。

質問

当社はカバンメーカーです。先日行われた、皮革製品のビジネスショーにおいて、新製品の旅行カバンを発表しました。

しかしながら、ビジネスショー後、同業者より同旅行カバンは同社の意匠権を侵害しているため、即刻販売を中止するようにとの警告書を受け取りました。同製品はビジネスショーにおいて多数の引き合いがあり、それを受けて中国の工場に発注を出している関係上、簡単に販売を中止するわけにはいきません。

新製品の旅行カバンは、確かに警告会社のベストセラーを参考にしてはいますが、15を超える細かい点で警告会社の旅行カバンと相違点を有するように設計しています。このように多くの相違点がある場合にも、意匠は類似しているといえるのでしょうか。意匠権侵害の考え方についてお教えください。

回答

1.意匠の類似

まず、意匠が類似するとはどういうことでしょうか。意匠は、意匠法によって「物品の形状、模様、色彩、またはこれらの組み合わせ」と定義されています(意匠法2条1項)。すなわち、法律上、意匠とは、物品の形態のことを言います。そして、意匠の同一、類似というのは、物品と形態とを使って次の表のように整理することができます。すなわち、物品が同一で形態が同一の場合を意匠の同一といい、物品が同一または類似していて、形態が類似の場合を意匠の類似といいます。


形態同一 形態類似 形態非類似
物品同一 意匠同一
デッドコピー
意匠類似 意匠非類似
物品類似 意匠類似 意匠類似 意匠非類似
物品非類似 意匠非類似 意匠非類似 意匠非類似

今回のケースは、貴社物品と相手方登録意匠の物品はいずれも旅行カバンですから、物品は同一ということになり、ご質問のように形態は同一ではありませんので、形態が類似するのか、類似しないのかという問題となります。

2.意匠の類否判断の手順

さて、ある意匠の形態が他の意匠の形態に類似するかどうかというのは、確かに難しい判断です。しかしながら、だからといって判断を行う特許庁審査官や裁判官が、個人の主観によって、漠然とその判断を行っているわけではありません。特許庁の審査(註1)や裁判所の判決では、判断手順が確立されています。

形態の類否判断は、次の順序で通り行われます。

形態の類否判断の手順

ご相談において、15の差異点がある旨を主張されていますが、これは上記(2)の作業にあたります。逆に、似ているポイントを整理して上記(1)の作業を行う必要があります。

3.類否判断に影響を与える要素

次に、上記(3)の共通点、差異点の評価付けを行うことになります。決して、差異点が15もあって、共通点が3つしかないから、類似しないと単純に結論がでるわけではありません。

(3)の作業では、つぎのような視点に基づいて共通点、差異点の評価を行っていきます(代表的な基準のみを説明します)。

  • ①需要者の注意を引く部分か否か
    ・・・例えば、カバンの外ポケットように需要者が常に視線を注ぐところは高く評価されるでしょうし、カバンの底のキャスターなどは需要者があまり気にしないでしょうから低く評価されます。
  • ②同種の物品について過去ありふれた形態であったか否か
    ・・・例えば、カバン表面に付された独特のワンポイントマークなどは高く評価されるでしょうし、カバンのハンドル部分がありふれたものであれば低く評価されます。
  • ③意匠全体に占める面積の比率
    ・・・例えば、カバンの外ポケットが大きな面積を占めれば高く評価することになりますし、ファスナーのつまみのような小さい部分は小さく評価される可能性があります。
  • ④物品の内部の評価
    ・・・一般に、意匠は物品の外観により評価されますから、たとえば、カバンの内部の仕切り構造が大きく違っていたとしても、その相違は大きく評価されません。
  • ⑤物品の特性に基づき観察されやすい部分か否か
    ・・・例えば、カバンは角部が破損しやすく、需要者はそこに注意して選択することが考えられますから、角部の補強パッチの有無などは大きく評価される可能性があります。

このような評価作業を行ったのちに、最終的に(4)の総合評価を行って、形態が類似するか否かを判断します。すなわち、相違点の評価が共通点の評価を凌駕すれば意匠は類似しない、と判断され、共通点の評価が差異点の評価を凌駕すれば意匠は類似する、と判断されることになります。

なお、弁理士や弁護士に意匠が類似するか否かの相談をする場合は、単に対比する2つの意匠を持ち込むだけではなく、業界の他の周辺意匠の情報を示して相談するようにしましょう。上記②のように、問題となる部分がありふれているかどうかも大きな判断の分かれ目になることがあるからです。

4.判定制度

特許庁に対して、貴社意匠が相手方の登録意匠に類似するか否かの判断を求めることもできます。これを判定制度といいます(意匠法25条)。

貴社のケースで判定を請求する場合は、「貴社の旅行カバンの意匠(イ号図面並びにその説明書に示す意匠)は登録第○○○○○号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない、との判定を求める」ことになります。この際、なぜ類似しないのか、の主張及び立証を行うことができます。特許庁は相手方に答弁書の提出を求め、両者の意見が出そろったところで判断を行うことになります。

結論が3か月~6か月で出され、特許庁に支払う判定請求料も4万円と安いので、裁判に比べて手軽に利用できます。

5.輸入差止の危険性

なお、ご相談のケースでは、中国から輸入しているとのことですが、相手方の意匠権者はその意匠権に基づき税関に対して輸入差止の申立を行う場合も考えられます(関税法69条)。デッドコピーではないため、この場合、輸入者である貴社にも意見を述べる機会が与えられますが、税関においても上記で説明した類否判断がなされますので、弁理士や弁護士などの専門家に相談して、両旅行カバンの意匠が類似しないことについて、理論立てておくことが必要でしょう。

参考情報

本QAは特許庁委託事業「外国産業財産権侵害対策等支援事業」において作成されたものです。
事業内容等は本事業サイト(http://www.jpo.go.jp/index/kokusai_doukou/iprsupport/index.html)をご確認下さい。