侵Q33

当店が50年以上店名として使用している名称が他人の商標権を侵害するので使用を中止してほしいという内容の警告を受けました。
対策を教えて下さい。

質問

当店(美容院)は、すでに50年以上前から、現在の場所で「紙風船」という名称で美容の提供をおこなっております。

先日、全く知らない人から書面が送付され、「紙ふうせん」という商標が商品の区分第44類(指定役務:理容、美容)で登録されているので、当店の店名の使用は他人の商標権の侵害にあたり、すぐ使用を中止すべきであるとのことでした。

当店としては寝耳に水で大変驚いており、また、店名を変えなければいけないのかと不安です。

本当に店名を変えなければならないのか、また、どのように対応すべきか教えて下さい。

回答

1.商標権の確認

まず、警告をしてきた第三者の商標「紙ふうせん」が確かに第44類(指定役務:理容、美容)で登録されているかどうか、確認する必要があります。特許庁のホームページから特許電子図書館(註1)で登録番号等を入力すれば、登録を確認することができます。

また、特許庁において商標登録原簿を入手し、登録の状況を確認することもできます。

第三者の登録商標の情報が入手できたら、当該登録商標にかかる出願の出願日、指定役務、権利者名等を確認することができます。

2.事実関係の確認

たしかに第三者の商標「紙ふうせん」が第44類(指定役務:理容、美容)について登録されていることが確認できたら、貴店の店名「紙風船」がいつから美容院の名称として使用されているかを確認します。上記第三者の商標登録出願前からずっと継続して使用されていること、役務は一貫して「美容の提供」であったことを立証できる証拠も準備します。

3.継続的使用権

  • (1)継続的使用権はどのような場合に認められるのか

    商標法の一部を改正する法律(平成3年法律第65号)附則第3条は、以下のとおり定めています。

    • 第三条 この法律の施行の日から六月を経過する前から日本国内において不正競争の目的でなく他人の登録商標(この法律の施行後の商標登録出願に係るものを含む。)に係る指定役務又は指定商品若しくは指定役務に類似する役務についてその登録商標又はこれに類似する商標の使用をしていた者は、継続してその役務についてその商標の使用をする場合は、この法律の施行の日から六月を経過する際現にその商標の使用をしてその役務に係る業務を行っている範囲内において、その役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。

    つまり、サービスマークの登録制度が導入された1992年9月30日以前から継続してサービスマークを使用していた場合には、同一・類似の商標がサービスマークとして登録された場合においても、当該サービスマークを継続して使用することができるということになります。

  • (2)継続的使用権を主張するための証拠

    1992年9月30日以前からサービスマークを使用していたことを立証するための資料としては、以下のようなものが考えられます。

    • ・パンフレット、ポスター、カタログ、営業案内等
    • ・看板、メニュー等の写真
    • ・新聞、雑誌、電話帳、カレンダー、時刻表等に掲載されている広告
    • ・同業組合、同業者団体の会員名簿
    • ・使用済みの請求書、領収書、納入伝票、注文伝票、見積書等の取引書類又はそのコピー
  • (3)継続的使用権が認められる範囲

    継続的使用権は、1992年9月30日以前に使用されていたマークについて、かつ、上記マークを使用して行っていたサービスについてのみ認められます。

    マークに関し、常識的に考えて同一と認められる程度の変更(縦書きと横書き、ゴシック体と草書体等)は同一の範囲と認められます。

    サービスについても、同種の営業の範囲と認められる変更は同一の範囲と認められますが、新たなサービスの追加は同一の範囲とは認められません。

    • ・認められる例:日本そばの提供のみを行っていたそば屋のメニューに天丼を追加
            パチンコ店にスロットマシンを追加
    • ・認められない例:喫茶店にバーの営業を追加
            (バーについて継続的使用権は認められない)
            バス輸送のみを行っていたバス会社がタクシーの営業を追加
            (タクシーの営業について継続的使用権は認められない)
            支店を新規に開店し、そこで商標を使用する行為

4.先使用権

以下の要件を満たせばいわゆる先使用権(商標法第32条)が認められ、その商標を続けて使用することができます。

  • ・他人の商標登録出願前からその商標を使用していたこと。
  • ・その商標が自己の業務にかかる商品・サービスを示すものとして需要者の間に広く認識されていること。
  • ・継続してその商品・サービスについてその商標の使用をしていること。

これは一般的に先使用権といわれるものです。貴店の店名である「紙風船」が周知性を獲得していた場合には、この先使用権を主張することもできます。周知性は少なくとも近隣の県のいくつかにまでわたっていることが必要です。

上記3.の継続的使用権と先使用権の違いは、周知性の立証が必要であること、先使用権については1992年9月30日以降の使用に基づいても主張することができる点です。

ちなみに、ラーメン店の店名の使用に関して争われた事件大阪地平9,12,9 平成7年(ワ)第13225号(註2)においては、先使用権は認められませんでしたが、継続的使用権は認められています。

商標の先使用権の主張においては特許の場合とは異なり、商標の周知性を立証しなければならず、上述のとおり少なくともいくつかの県にわたる周知性が必要であることから、決して容易とはいえません。よって、先使用権が認められた例は多いとはいえません。

5.無効審判請求

もし、貴社商標が第三者の商標出願前から周知であった場合には、第三者の商標登録に対して無効審判を請求することも可能かもしれません(商標法第46条)。

原則として無効審判請求できる期間は、商標登録から5年以内に限られますが、もし第三者の出願に不正競争の意図があったならば(たとえば貴社商標の周知性に便乗しようというような意図)、5年経過後も無効審判請求が認められます(商標法第47条)。

参考情報

本QAは特許庁委託事業「外国産業財産権侵害対策等支援事業」において作成されたものです。
事業内容等は本事業サイト(http://www.jpo.go.jp/index/kokusai_doukou/iprsupport/index.html)をご確認下さい。