侵Q32

万年筆メーカから万年筆に使われるインクの販売に関して間接侵害の警告書が送られてきました。そのインクは建材用の用途にも使われています。間接侵害に該当するのでしょうか。

質問

弊社はインクメーカで印刷用のインクから建材用塗料(インク)まで各種インクを製造販売しています。国内の万年筆メーカXは、圧力を加えると書いたインク文字を消すことができる万年筆を発売しました。弊社でその万年筆のインクを分析すると、すでに弊社が特殊建材の腐食防止用の塗料(インク)として販売しているものと同じABC化合物を含むインクでした。そこで弊社はABC化合物を使って万年筆用のインクを販売しました。しばらくして、万年筆メーカXから間接侵害との警告書が送られてきました。警告書とともに添付された特許公報には、万年筆の発明が記載されていましたが、ABC化合物を含むインク自体の発明はありませんでした。弊社は特許出願前から特殊建材の腐食防止用の塗料を販売しています。間接侵害に該当するのでしょうか。

以下は、特許公報の記載の一部の抜粋です。

「【請求項1】 先端にペン先を有する軸筒と、前記軸筒内にインクを貯めるインク貯蔵部とを有する万年筆であって、
 前記インクは着色剤と水とABC化合物とを含有する万年筆。

【請求項2】 請求項1に記載の万年筆であって、紙に書いた文字に圧力を加える圧力手段を有する万年筆。

 …(略)…

【発明が解決しようとする課題】

鉛筆で書いた文字などは消しゴムで消すことができたが、従来の万年筆は紙に書いた文字などを消すことができなかった。そこで本発明は万年筆で紙に書いたインク文字を消すことができるようにした万年筆を提供する。」

回答

1.間接侵害について

  • (1)特許権の侵害は、特許発明の全ての要件を、特許法第2条3項に規定される行為態様で、業として実施した場合に成立します(直接侵害)。特許発明は万年筆であり、貴社は万年筆を製造販売していませんので直接侵害には該当しません。
  • (2)一方、特許発明の全ての要件を満たしていなくても、直接侵害を引き起こす蓋然性の高い、一定の予備的・幇助的行為を侵害行為とみなしています。このような侵害行為を間接侵害といいます(特許法第101条(註1))。
  • (3)旧第101条(現行法の第101条第1号(物の発明)、第4号(方法の発明)に相当)では、特許製品の重要部品を実施するためだけに用いられるもの(以下、「専用品」という。)を実施する行為を間接侵害とみなしてきました。一方、特許製品の部品が他の用途を有しているもの(以下、「中性品」という。)を実施する行為は間接侵害に該当しませんでした。
  • (4)今回貴社が販売し始めた“万年筆用のインク”は特殊建材の腐食防止用の塗料にも使用されるため、「専用品」ではありません。特許製品(万年筆)の部品(着色剤と水とABC化合物とを含有するインク)が他の用途(特殊建材の腐食防止用の塗料)を有していますから、“万年筆用のインク”は「中性品」に該当すると思われます。
  • (5)日本特許法下での間接侵害規定は、間接侵害の規定の実効的保護の観点から、2002年に法改正が行われ、現行法第101条第2号及び第5号が追加されました。改正経緯については脚注(註2)を参照してください。この法改正により、第101条第2号の要件を満たす「中性品」も特許権侵害に該当するようになりました。

2.「中性品」が特許権侵害になる要件

貴社が製造販売する“万年筆用のインク”が、第101条第2号の要件を満たすか否かを検討しましょう。

第101条第2号は次のように規定されています。

「特許が物の発明についてされている場合において、その物の生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であってその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」

  • (1)「その物の生産に用いる物であって発明による課題の解決に不可欠なもの」は、それを用いることにより初めて「発明の解決しようとする課題」が解決されるような部品、道具、原料等が「発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当します。今回の特許発明は、万年筆で紙に書いたインク文字を消すことができるようにした万年筆です。消すことができる“万年筆用のインク”は、「発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当すると思われます。
  • (2)「日本国内において広く一般に流通しているものを除く」とは、例えばネジ、電球、トランジスター等の日本国内において広く普及している一般的な汎用品が該当します。特殊建材の腐食防止用の塗料として販売されていたとしても、特殊建材であり、またその一用途の塗料ですから広く一般に流通していたとは言い難いと思われます。
  • (3)「その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら」という要件は、貴社が万年筆メーカXの万年筆の特許発明を認識しており、且つ、そのインクがその発明の実施に用いられることを認識していたかということになります。まず、貴社は「その発明が特許発明であること」を認識していたのでしょうか。貴社の“万年筆用のインク”の発売時に貴社が万年筆メーカXの万年筆の特許発明を知っていたか否かわかりませんが、今回の警告書で「知りながら」の要件を満たすと判断されるでしょう。また貴社は、消すことのできる万年筆という商品が出たためそのインクの分析を行っています。そのため貴社は、「その物がその発明の実施に用いられる」を認識していたと判断されると思います。

3.解決策

  • (1)貴社が“万年筆用のインク”を製造販売する行為は、第101条第2号の規定により間接侵害に該当する可能性が高いと思われます。そのため“万年筆用のインク”の今後の製造販売に関して万年筆メーカXとライセンス交渉する又は製造販売を中止することをお勧めします。
  • (2)仮に、特殊建材の腐食防止用の塗料が、紙に描いた状態で圧力を加えると消えてしまうことが特許出願時に公知であったならば、この万年筆の特許発明を無効にすることができる可能性もあります。特許発明が無効になれば“万年筆用のインク”を製造販売できます。逆に、圧力を加えると消えてしまうことが特許出願時に公知でなければ、特許は維持されるでしょう。
  • (3)間接侵害の判断は直接侵害以上に判断が難しく、特に第101条第2号、第5号に関連してはその判断が難しいです。そのため専門的知識を有した専門家(弁護士、弁理士等)に相談して今後の対応を相談する方がよいでしょう。
参考情報
  • (註1)特許法第101条
    次に掲げる行為は、当該特許権又は専用実施権を侵害するものとみなす。
    • 一  特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
    • 二  特許が物の発明についてされている場合において、その物の生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
    • 三  特許が物の発明についてされている場合において、その物を業としての譲渡等又は輸出のために所持する行為
    • 四  特許が方法の発明についてされている場合において、業として、その方法の使用にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
    • 五  特許が方法の発明についてされている場合において、その方法の使用に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
    • 六  特許が物を生産する方法の発明についてされている場合において、その方法により生産した物を業としての譲渡等又は輸出のために所持する行為。
  • (註2)間接侵害規定の拡充
    (特許庁ホームページ→ 法律・条約→産業財産権法(工業所有権法)の解説【平成6年法~平成18年法】 2007.3.16)
    http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/shiryou/hourei/kakokai/sangyou_zaisanhou.htm

本QAは特許庁委託事業「外国産業財産権侵害対策等支援事業」において作成されたものです。
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