侵Q30

下水道用マンホールに関して特許権を取得しました。特許発明に係るマンホールは地方公共団体からも引き合いが多く、複数のマンホールメーカから特許ライセンスの申し入れも出てきています。特許ライセンス契約を結ぶ上でどのような点に注意したらよいでしょうか。

質問

当社は主に下水道用マンホールを製造するメーカです。今回、下水道用マンホールに関して特許権を取得しました。特許発明に係るマンホールは従来のマンホールと比べて性能が優れているため、地方公共団体からも引き合いが多く、複数のマンホールメーカから特許ライセンスの申し入れもあります。

複数のマンホールメーカから特許ライセンスの申し入れがあるため、マンホールメーカ毎に製造・販売地域や製造・販売数量等を割り当てるような特許ライセンス契約を結びたいと考えていますがどのような点に留意して契約を結べばよいでしょうか。また、その特許ライセンス契約に不争義務(ライセンシーが特許権の有効性を争わない契約)を入れてもよいのでしょうか、また当社所有の商標をマンホールに付すように義務付けてもよいでしょうか。

回答

1.特許権と独占禁止法

  • (1)特許権者が、第三者にその技術を利用させないようにする行為及び利用できる範囲を限定する行為は特許権の正当な権利行使と判断されます(独占禁止法第21条)。しかし、これらの行為であっても実質的に権利の行使とは評価できない場合は不公正な取引方法(独占禁止法第19条)に該当すると判断されることがあります。すなわち、特許権の行使とみられる行為であっても、行為の目的や態様等から競争に与える影響の大きさも勘案した上で、特許法の趣旨を逸脱すると認められる場合は、独占禁止法が適用されることがあります。
  • (2)この観点について、公正取引委員会から「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針:http://www.jftc.go.jp/dk/chitekizaisan.html」が出されています。
  • (3)貴社のご質問について、「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(以下、「指針」という。)を参照しながらお答えしたいと思います。

2.特許ライセンス契約について

  • (1)まず、複数のマンホールメーカから特許ライセンスの申し入れがあるようですが、貴社は、一部のマンホールメーカに対して合理的な理由なく差別的にライセンスを拒絶するようなことは行うべきではありません。差別的にライセンスを拒絶することによってマンホールメーカ間の競争機能を低下させ公正競争阻害性を有すると判断される場合には、不公正な取引方法(独占禁止法第19条)に該当することになります。申し入れのライセンス料が極端に低く他のマンホールメーカと同じライセンス料を承諾しないなどの合理的理由がある場合には、ライセンスを拒絶しても問題ないと考えられます。(「指針」の“第3.1.(1)技術を利用させないようにする行為”を参照。)
  • (2)貴社は、マンホールメーカ毎に製造地域を割り当てるライセンスを設定したいとのことですが、このような製造地域を割り当てることは原則として不公正な取引方法に該当しないと考えられます。例えばマンホールメーカAは関東地域を製造地域に、マンホールメーカBは関西地域を製造地域に割り当てるようなライセンス契約です。(「指針」の“第4.3.(2)製造に係る制限 ア 製造できる地域の制限”を参照。)
  • (3)製造数量等を割り当てるようなライセンス契約には注意が必要です。マンホールの製造数量の下限を定めることは、他の技術の利用を排除することにならない限り、原則として不公正な取引方法に該当しないと考えられます。他方、製造数量の上限を定めることは、市場全体の供給量を制限することになり、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する可能性があると考えられます。(「指針」の“第4.3.(2)製造に係る制限 イ 製造数量の制限又は製造における技術の使用回数の制限”を参照。)
  • (4)マンホールメーカ毎に販売地域を割り当てるライセンス契約も原則として不公正な取引方法に該当しないと考えられます。また、マンホールの販売数量の下限及び上限を定めることは、上記(3)と同様に考えられます。しかし、マンホールメーカに特定の販売先を割り当てたり、特定の者には販売させない等のライセンス条件は不公正な取引方法に該当すると思われます。(「指針」の“第4.4.(2)販売に係る制限 アおよびイ”を参照。)
  • (5)貴社は、ライセンス条項に不争義務(註1)を入れたいとのことです。一般に、不争義務は、円滑な技術取引を通じ競争の促進に資する面が認められ、かつ直接的には競争を減殺するおそれは小さいと考えられます。そのため、不争義務の条項を入れることは不公正な取引方法に該当しないと思われます。しかしながら、不争義務の条件によっては、公正競争阻害性を有するものとして不公正な取引方法に該当する場合もありえますので、専門的知識を有した専門家(弁護士、弁理士等)に相談する方がよいでしょう。なお,ライセンシーであるマンホールメーカが特許権の有効性を争った場合に当該権利の対象となっている技術についてライセンス契約を解除する条項を定めることは、原則として不公正な取引方法に該当しないと考えられます。(「指針」の“第4.4.(7) 不争義務”を参照。)
  • (6)貴社所有の商標の使用を義務付ける条項は、商標が重要な競争手段であり、競争を減殺するおそれは小さいと考えられますので、原則として不公正な取引方法に該当しないと思われます。しかし、ライセンシーであるマンホールメーカ自身又はその他の商標をマンホールに付す行為を禁止する条項は、不公正な取引方法に該当すると思われます。(「指針」の“第4.4.(2)販売に係る制限 柱書およびウ”を参照。)
  • (7)以上、貴社の個々の質問に対してお答えしてきましたが、事業者にとって、当該行為が独占禁止法に違反するかを予測するためには、当該行為が競争にどのように影響するかを見極める必要があります。そのため「指針」(2007年9月)は、公正競争阻害性の判断で客観的な数値によって安全とされる範囲、いわゆるセーフハーバー(註2)を、初めて日本でも導入しました(「指針」の“第2”)。 このセーフハーバーでは、競争減殺効果を分析する主たる市場としては、(1)当該技術を用いた製品の市場(製品市場)と(2)取引される当該技術の市場(技術市場)とを想定しています。まず、(1)製品市場における競争への影響については、①製品シェア20%以下であれば安全領域、②製品シェア20%超であれば安全領域に該当しない、③製品シェア算出不能であれば安全領域に該当しない、ということになります。次に、(2)技術市場における競争への影響については、a.製品シェアを用いることが適当な場合は(1)の製品市場の場合と同様の基準で検討します。他方、b.製品シェアの算出が不可能な場合は、代替技術事業者数4以上であれば安全領域に該当し、代替技術事業者数4未満であれば安全領域に該当しないということになります。
  • (8)以上のように、2007年9月28日に公表された「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」は、実務上専門機関の考え方として参考となります。なお、公正取引委員会によって1999年7月30日に公表された「特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針」は上記「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」によって廃止されていますが、両者を見比べますと指針内容が変更された箇所があります。今後の裁判例によって指針もさらに変遷していく可能性もあります。このため、特許ライセンス契約の作成にあたっては専門家に相談することをお勧めします。
参考情報
  • (註1)不争義務:ライセンサーライセンスを受けている特許発明に対して有効性を争わない(特許無効審判の請求を行なわないなど)の義務を記載した契約
  • (註2)セーフハーバー:一般に、一定のルールのもとで行動する限り違法ないし違反にならないとされる範囲のルールのこと

本QAは特許庁委託事業「外国産業財産権侵害対策等支援事業」において作成されたものです。
事業内容等は本事業サイト(http://www.jpo.go.jp/index/kokusai_doukou/iprsupport/index.html)をご確認下さい。