侵Q29

当社がこれから販売する予定の新商品の写真及び仕様を当社ホームページに掲載したところ、特許権の実施権者から警告を受けました。このまま新商品をホームページに掲載していても問題ありませんか。

質問

当社は、医療機器のメーカです。新商品の正式販売に先立ち新商品の写真及び簡単な仕様を当社ホームページに掲載しました。新商品の販売前にもかかわらず、特許権の実施権者であるというX社から当社に、「新商品は特許権を侵害するから、新商品を当社ホームページから削除するとともに掲載による損害を賠償するように」との警告書が届きました。

当社ホームページに掲載された新商品の写真及び簡単な仕様からでは、X社は新商品が特許を侵害するかわからないと思います。このまま新商品をホームページに掲載していても問題ありませんか。

回答

1.販売予告する行為

  • (1)特許法第2条第3項第1号は次のように、発明の「実施」について定めています。 「物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあっては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為」
  • (2)上記条項の「譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む)」の規定により、特許発明を実施する行為には、実際に商品を製造したり販売したりする行為だけでなく、インターネット上で販売予告する行為も含まれます。このため、他人の特許発明の技術的範囲に属する商品の販売予告は特許権侵害に該当します。例えば、特許期間が満了する数ヶ月前から“特許権者の商品と同じ商品を近日中に販売します”とインターネット上で宣伝し、特許期間の満了日が過ぎてから商品を顧客に届けるようにしても、特許権侵害になります。商品の販売予告から特許権の満了日までに、権利者(特許権者、専用実施権者又は独占的通常実施権者)の商品の買い控えによる売上の減少(逸失利益)が生じることがあるからです。
  • (3)貴社が、まだ実際に新商品を製造販売しておらず単にホームページに新商品の販売予告を掲載しただけだから特許侵害の問題はない、とのお考えであれば、そのお考えは誤っています。

2.特許権の確認、実施権者の確認

  • (1)貴社は、まず警告書に記載された特許権を確認すべきです。特許庁から特許原簿を取り寄せて又はX社に特許原簿の送付を要求して、特許権が有効に存続しているかを確認します。
  • (2)特許原簿には、特許権の移転、専用実施権、通常実施権の記録などが記載されています。X社は実施権者であると言っていますので、X社が特許原簿に専用実施権者又は通常実施権者として記載されているかを確認してください。但し、通常実施権の登録は第三者対抗要件として登録するのであって登録しなければ通常実施権者となりえないわけではありません。そのため、X社が特許原簿に載っていないことがあります。
  • (3)X社が通常実施権者であれば、X社が通常実施権者であることを示す契約書等を提示するように要求してください。そして、X社が独占的通常実施権者か又は非独占的通常実施権者であるかを確認してください。下記(3.(2),(3))に説明するように、X社が独占的通常実施権者又は非独占的通常実施権者で採りうる対応が異なってくるからです。
  • (4)ライセンス契約の実務として広く活用される通常実施権の形態には、独占的通常実施権と非独占的通常実施権とがあります。独占的通常実施権とは特許権者が独占的通常実施権者以外の第三者に対して実施権を設定しない合意を含んだ契約による実施権です。非独占的通常実施権とは特許権者が複数人に対して実施権を設定する合意を含んだ契約による実施権です。

3.実施権者として、差止請求又は損害賠償請求することができるか。

  • (1)X社が専用実施権者であった場合には、「新商品は特許権を侵害するから、新商品を当社ホームページから削除するとともに掲載による損害を賠償するように」との警告書を送付する権原を有しています(註1)。
  • (2)X社が独占的通常実施権者であった場合、「新商品を当社ホームページから削除するように」との警告書を送付する権原はないと考えられます。一方、「損害を賠償するように」との権原を有していると考えられます。これまでの裁判例から、独占的通常実施権者は差止請求はできず損害賠償請求しかできないと考えられているからです。
  • (3)X社が非独占通常実施権者であった場合、差止請求する権原や損害賠償を請求する権原を有していません。この場合には、貴社は、X社がそれらの権原がない旨の回答をすれば足りると思われます。

4.特許発明の技術的範囲に属するかの検討

 X社が正当な権原(上記3.(1)~(2)を参照。)を有していれば、差止請求又は損害賠償請求できますので、貴社の新商品が特許発明の技術的範囲に属するか否かの検討が必要になります。

  • (1)貴社の新商品が特許発明の技術的範囲に属するか否かが、貴社の言うとおり、新商品の写真及び簡単な仕様から判断できないものであれば、貴社から積極的に新商品の詳細をX社に回答する必要はありません。特許権侵害の立証義務はX社側にあるからです。
  • (2)しかし、新商品が販売されれば、X社が新商品を手に入れて新商品が特許発明の技術的範囲に属するか判断することが予想されます。このため、貴社は現時点で新商品が特許権侵害になるか否かを調べる方が好ましいと思われます。(侵Q2の回答を参照。)特許発明の技術的範囲に属するのであれば、新商品の販売前に設計変更することも可能です。
  • (3)新商品が特許発明の技術的範囲に属するのであれば、X社とライセンス交渉することも一案です。今から設計変更していては新商品を予定通り販売できなくなるのであればライセンス交渉も有効な手段となりえます。また、新商品が販売される前であれば販売された後よりもライセンス交渉も有利に進む場合もあると思われます。
  • (4)その一方で、特許が無効理由を有していないかも検討しましょう(註2)。特許が無効になれば特許権侵害になりません。特許無効審判を請求しないまでも、特許を無効にする資料を有しているとライセンス交渉を有利に進めることができることが多いです。(特許権の有効性の確認については侵Q2の回答を参照。)
  • (5) 新商品が特許発明の技術的範囲に属するか否かの検討、特許を無効にすることができるか否かの検討は、専門的知識を有した専門家(弁護士、弁理士等)に相談する方が好ましいでしょう。

5.まとめ

  • (1)上記2~4.を検討して、新商品が特許権侵害に該当しないことを確信できた場合には、貴社はこのまま新商品をホームページに掲載していてもよいでしょう。
  • (2)一方、新商品が特許権侵害に該当するならば、貴社は新商品をホームページから直ちに削除し、設計変更又はライセンス交渉等を検討した方がよいと思われます。
参考情報
  • (註1)特許法第100条第1項  特許権者又は専用実施権者は、自己の特許権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
  • (註2)その特許が新規事項を追加する不適法な補正をした特許出願であったり、特許要件(特許法第29条、第29条の2等)に違反して特許されたなどの無効理由があります。

本QAは特許庁委託事業「外国産業財産権侵害対策等支援事業」において作成されたものです。
事業内容等は本事業サイト(http://www.jpo.go.jp/index/kokusai_doukou/iprsupport/index.html)をご確認下さい。