侵Q25

中国から意匠権の侵害品を輸入している会社に対して、警告書を送ってその侵害を止めさせようと考えています。警告書を送ったあとの対応について、教えください。

質問

当社は鋼板の切断加工に用いるプラズマ切断装置を製造販売するメーカーです。プラズマ切断装置は、電極及びその周辺部分が消耗するため、これら部品を切断装置の売り先に提供していますが、先日、この電極について韓国からの輸入品が販売されているのを発見しました。電極は当社製品にのみ使用するためのもので、特殊な形状を有しており、意匠登録も行っています。

この電極を韓国から輸入・販売している販売代理店に対して、当社の意匠権を侵害している旨の警告書を出す予定ですが、相手方からはどのような反論が予想されるのでしょうか。また、警告書が無視された場合、どのような手段をとることができるのでしょうか。

回答

1.相手方から予想される回答

意匠権の侵害を指摘した警告書を送った場合、相手方から予想される回答は、次の4つのパターンを組み合わせたものです。

  • (1)貴社意匠権の権利範囲に属しない旨(権利非抵触)の回答
    相手方製品の意匠が多少変形を加えている場合は、登録意匠に類似しなければ意匠権侵害が成立しませんから(意匠法23条)、デッドコピーでない場合はかかる主張がなされる可能性が高いでしょう。意匠の類否が問題となる場合は、周辺の公知意匠や物品の性質を考慮して判断しなければなりませんから、登録意匠の創作経緯を開示したうえで弁理士や弁護士などの専門家に相談することが望ましいでしょう。
    なお、意匠権は不正競争防止法のように模倣のような、登録意匠の存在を知っていたかどうかが問われない権利ですから、相手方が独自創作であるとの抗弁をしてきた場合は、気にする必要はありません。
  • (2)実施する権利を有している旨(正当権原所有)の主張
    貴社の意匠権に抵触している場合であっても、相手方が実施するにあたり正当権原を有する場合は、相手方の意匠の実施を止めることはできません。
    正当権原の代表的なものが、先使用権(意匠法29条)です。すなわち、相手方が貴社登録意匠の出願日前に、その意匠の輸入・販売という実施をしている場合は、相手方は通常実施権を有することとなり、正当権原を有することとなります。ただし、日本国内での実施が要件とされますから、例えば中国市場での製造販売が貴社登録意匠の出願日より前であっても、日本での輸入販売が登録意匠の出願日より後であれば、先使用権は発生しないこととなります。
    先使用権など事実関係を基に認定される相手方の権利は、その証拠力などの問題が議論となることが多いといえます。
  • (3)権利無効の主張
    貴社の意匠権の無効を主張してくる場合があります。意匠登録は、新規性や創作非容易性に反して登録されている場合は無効となりますので(意匠法48条)、相手方が特許庁で審査されなかった公知資料を基に、新規性や創作非容易性違反による無効を主張してくる場合があります。現在、特許庁に対して請求する無効審判のほかに、裁判所で争われる侵害訴訟事件のなかで、無効が主張されることがあります(準用する特許法104条の3)。例えば、貴社の意匠出願前に、貴社自らが自分のカタログに掲載していたり、新聞発表されていたりした場合に、その証拠を提示しながら新規性要件違反として権利の無効が主張される場合もあります。
    いずれにしろ、権利無効の主張がなされた場合は、その主張について弁理士や弁護士の専門家を交えて再検討し、権利の有効性について確認する必要があるでしょう。
  • (4)承諾
    意匠権の抵触を認めずとも、他の理由を述べて相手方から製品の輸入・販売の中止を表明する場合があります。相手方製品の輸入の中止のみを求めていた場合は、その事実が確認されたとしたら一連の作業はひとまず終了となります。
    また、損害賠償あるいは実施料の支払いまで求めた場合であれば、侵害を認めないという相手方の回答に対して、さらに議論が必要になります。損害額という名称でなくとも、和解金というような名目で金銭が支払われる場合があります。そういった合意に達した場合は、和解案を作成することとなりますが、後日の合意内容の齟齬を生まないためにも専門家である弁護士や弁理士に和解案の作成を依頼することが望ましいでしょう。

2.法的救済の請求

警告書・回答書のやり取りで結論が出ない場合、または相手方がまったく回答を送付しない場合は、次の2つの機関に対して法的救済を求めることができます。

  • (1)裁判所
    意匠権の侵害を理由に、差止請求、損害賠償等を請求して提訴することができます。意匠権の管轄裁判所は全国の地方裁判所で、特許権やコンピュータプログラムの著作権についての、東京地方裁判所や大阪地方裁判所の特別管轄規定は適用されませんから、相手方会社の所在地を考慮することとなります。管轄裁判所は、差止請求のみを求めた場合は、相手方の会社の所在地についての地方裁判所、損害賠償を求めた場合は貴社の所在地についての地方裁判所となります。
    正式な判決を求める裁判(本訴)以外に、意匠権の侵害による損害が差し迫った場合などは、侵害差止めについての仮処分を求めることができます。仮処分は短期間に結論が出るため、その点は利点がありますが、差止めが認められた場合はその執行に保証金を寄託しなければならないこと、仮処分を求める、差し迫った理由の疎明を求められること、現在、本訴でもその結論がでるまでの期間が短くなっていること等の理由により、仮処分を求めることは少なくなっています。
  • (2)税関
    相手方製品が輸入される税関に対して、輸入差止の申立てを行うことができます。税関は、函館税関、東京税関、横浜税関、名古屋税関、大阪税関、神戸税関、門司税関、長崎税関、沖縄地区税関のそれぞれが独立していますが、知的財産権に関する輸入差止申立手続きがあった場合は東京税関へ移送され、そこにおいて審理されます。
    税関長が必要と認める場合は、学者、弁護士、弁理士が委嘱される専門委員3名により輸入差止申立ての受理、不受理が審査されます。専門委員は当事者(輸入者、申立人)から意見聴取を行いますが、このとき輸入者は反論を行い、非抵触の抗弁のみならず、意匠権の無効や先使用権の主張も行うことができます。税関長は、専門委員の意見に基づき、輸入差止申し立の受理、不受理を決定することとなります。
    通常、申し立てから結論が出るまでは、1ヶ月から2、3ヶ月の期間となるように運用されていますから、早急に輸入を差し止めたい場合は、税関に対してこの申立てを行うことは意義があるでしょう。

(輸入差止申立時に提出する、侵害品の識別ポイントの記載例:東京税関ホームページより)
輸入差止申立時に提出する、侵害品の識別解説書の例

3.告訴

意匠権侵害は刑事事件の対象にもなります(意匠法69条)。意匠権侵害に対する刑罰は、非親告罪であって告訴を必要としませんが、現実には告訴をしなければ事件となりません。通常の侵害事件の場合は、実際に警察に対して告訴を行っても、刑事事件として取り扱われる可能性は低いといえますが、その侵害が組織的であったり、悪質であるような場合は刑事事件として立件される場合もあります。

本QAは特許庁委託事業「外国産業財産権侵害対策等支援事業」において作成されたものです。
事業内容等は本事業サイト(http://www.jpo.go.jp/index/kokusai_doukou/iprsupport/index.html)をご確認下さい。