侵Q10

現在では権利が消滅している特許権及び実用新案権に基づいて損害賠償を請求されました。支払義務はあるのか、ある場合はその額はどの程度ですか。

質問

当社は、粘着シートの製造販売を行なっています。競合するX社から、同社Xが所有していた権利に基づいて、損害賠償を支払えとの警告書を受け取りました(この警告書には、現在は権利が消滅していることが記載されています。)。

当社としては、X社の特許権及び実用新案権のいずれも思い当たるところがあります。しかし、今となっては権利が消滅しているのですから、損害賠償の義務はないのではないでしょうか。

最終的には侵害問題で長期間にわたりゴタゴタするのは避けたいので、金銭で解決する用意はあります。その金額も含めて、どのように考えたらよいのでしょうか。

回答

1.損害賠償請求権と時効消滅

貴社の粘着シートの製造販売がX社の特許権及び実用新案権のいずれも侵害することになることを前提として話しを進めます。

  • (1)特許権又は実用新案権の侵害行為は不法行為であるために 、権利者は侵害行為によって被った損害の賠償を侵害者に対して請求することができます(註1)。
    したがって、X社は貴社に対して損害賠償請求権があります。
  • (2)しかし、不法行為による損害賠償請求権の消滅時効期間は、被害者又はその法定代理人が損害又は加害者を知った時から3年です(註2)
  • (3)したがって、X社が貴社の粘着シートの製造販売を、いずれの時点で知ったかによって時効消滅が異なってきます。
    すなわち、X社が貴社の粘着シートの製造販売を知って3年以上経過しているときは、その3年以上経過している貴社の製造販売行為に対する損害賠償請求権は時効により消滅しております。これに対し、過去3年以内の製造・販売分については時効により消滅しておりません。
  • (4)質問によれば、現在は権利が消滅しているとしても、その権利の存続期間中の貴社の粘着シートの製造販売であって、かつ、消滅時効にかからない製造・販売分については損害賠償をしなければなりません。

2.損害賠償請求の形態

損害賠償請求としては次の4つの形態があります。実務的には、特許法102条1項~3項に基づく場合が多いとされております。

  • (1)民法709条に基づく:侵害者の侵害行為によって特許権者に生じた損害額を請求する場合
  • (2)特許法102条1項に基づく:侵害者の侵害品の譲渡数量×特許権者がその侵害行為がなければ販売することができた物の単位当たりの利益額を請求する場合
  • (3)特許法102条2項に基づく:侵害者が侵害行為によって得た利益額を請求する場合
  • (4)特許法102条3項に基づく:特許権者が侵害者の特許発明の実施に対し受けるべき金額を請求する場合
    なお、特許法102条3項に基づく、いわゆる実施料相当の損害額については、製品の業種、製品が大量生産品であるか又は特注品なのか等によって異なりますが、医薬品などを除くと販売価格に対して2~7%程度の場合が多いようです。また、当該発明が基本発明なのか応用発明なのかによっても変わるでしょう。

3.不当利得返還請求権

貴社の粘着シートの製造販売行為が消滅時効にかかる場合に、過去10年間の分については、不当利得返還請求権に基づく利得の返還請求が可能であります。

不法行為による損害賠償請求の場合(民法709条)と異なり、「故意又は過失」は要件とされておりません。

侵害者は特許発明を無断で実施し本来特許権者に支払うべき実施料の支払いを免れたとする受益があり、これに対し特許権者は、本来支払を受けられたはずの実施料の支払いを受けられなかったとう損失があり、これらの間には相当因果関係があると認められるので、実施料相当額分について、特許権者は侵害者に対し、不当利得返還請求権に基づく利得の返還請求ができるというものであります。

この不当利得返還請求は特許権又は実用新案権の存続期間が満了により消滅した場合や、消滅時効により損害賠償請求権が消滅した場合に主張されます。

参考情報
  • (註1)民法第709条は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と不法行為に対する損害賠償する責任を定めています。
    特許法第103条は「他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する。」として、特許権者又は専用実施権者による侵害者に故意や過失があったことを証明する負担を軽減しております。
  • (註2)民法 第724条 「不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。」
  • (註3)民法 第703条 「法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。」
    民法 第167条第1項 「債権は、十年間行使しないときは、消滅する。」

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