侵Q9

得意先から取引契約に特許保証を要求されています。装置の輸出先の米国における侵害訴訟でのリスク軽減のためにも、今から準備すべき必要な事項を教えてください。

質問

当社は、半導体の製造工程で使用する切断装置のメーカーであります。過日、米国の半導体製造メーカーXに製造技術を輸出している日本の得意先A社から、取引契約に第三者の特許権を侵害しない旨の特許保証条項を入れて欲しいと要求され、今後の取引も考えますと、この要求をむげには断れない状況にあります。

しかし、米国での3倍賠償などの当社のリスク軽減のために、万一、侵害訴訟事件が発生してもそれに対処できるように、事前に調査や体制を予め整えておきたいと考えております。実務上、今から実行すべき必要な事項と注意事項を教えてください。

回答

1.基本方針

  • (1)A社との間での責任分担等の特許保証の内容を十分に検討したうえで対応して下さい。
  • (2)販売はA社あるいは米国の半導体製造メーカーX社であるからといって、貴社が侵害訴訟事件に巻き込まれることも多いに予想されます。したがって、特許保証を行なう観点からも、貴社独自に侵害訴訟事件に巻き込まれるリスク防止のための十分な体制を予め整えておく必要があります。
  • (3)米国においては、成文法及びコモンロー(Common Law:社会規範)のほか、エクイティ(Equity:衡平法又は公平法とも訳される)と称される正義、公正の規範に従うことが重要であります。したがって、侵害予防においても重要なことは、「行動及び言動は誠実に、他人の特許権はこれを尊重する」という心構えで対応することであります。
    米国特許侵害訴訟に巻き込まれた場合、不誠実な対応を取ったとみなされると、裁判官や陪審員に悪い印象を持たれ、故意侵害(Willful Infringment:特許権の存在を知っていながら、侵害する製品を製造販売するなどの侵害行為)による懲罰的賠償(Punitive Damages:特許法284条の第2段落参照)も認定される危険性があることを肝に命じておくことが重要であります。

2.特許保証

  • (1)特許又はノウハウの実施許諾等のライセンス契約以外のほか、貴社が納入しようとする装置に関して、第三者の知的財産権を侵害した場合における貴社とA社の間で責任や分担を、購買契約(取引契約)において予め決めておくことがあり、これが特許保証(補償)と呼ばれるものです。
  • (2)特許保証の条項としては、第三者との間で知的財産権の紛争が生じた場合における通知義務、第三者の知的財産権を侵害した場合において、どの範囲内で損害額を負担するのか、紛争解決の主体又は分担などがあります。これらについて、A社との間で公平及び公正なリスク負担のバランスを考えて合意に努めることが重要であります。

3.米国特許調査

  • (1)貴社が納入する予定の装置に関する米国の特許調査を行なうことが必要であります。その際に、米国特許庁のデータベース、商業データベース(註1)によるコンピュータ検索、現地調査会社や法律事務所を通して依頼するマニュアル調査、あるいはそれらの組み合わせがあります。この調査を一度だけ行なうのではなく、調査時点では出願中で眠っている場合などに備え、継続的な調査が必要であります。
  • (2)調査の過程で、発見した特許出願や特許権について、日本を含めた外国に対応したものがある場合には、それらの国における経緯や結果を調べておくことも有効であります。

4.発見された検討特許への対応

  • (1)特許調査の結果、検討を要する特許が発見された場合、貴社の装置が侵害するか(侵害の可能性の有無)、特許の有効性の判断、及び特許権者による権利行使の可能性などについて、検討することが必要です。
  • (2)侵害の可能性の有無
    できるだけ早い時期に米国弁護士の鑑定書を入手することが必要です。早期の鑑定書入手は、後に“善意/誠実さ”(Good Faith)を立証するうえで決め手になります。ここで注意して欲しいのは、一旦鑑定書を取得したものであっても、所得後に何年も経過した場合、あるいは権利解釈に大きく影響を及ぼす重要な判例が出たような場合、最新の状況でサポートされた鑑定書を取り直すことが重要であります。
    鑑定の依頼書は、相手方が訴訟において自白の資料として用いる可能性があるので、その記載内容には十分な注意を要します。
    必要により、重要な案件の場合、他の弁護士からの意見(Secondary Opinion )も入手することも検討して下さい。複数の弁護士から同じ鑑定結果を得ていれば、より強力な主張が可能となります。
    鑑定結果が「侵害」となる場合、設計変更を検討すべきです。鑑定の際に弁護士が侵害回避策に係る言及を行なっている場合、できるだけそれに従うことが重要です。
    鑑定結果において侵害回避策に触れられていない場合においては、貴社による代替設計変更案をもって、追加の鑑定を依頼することを忘れないで下さい。
  • (3)特許の有効性の判断
    調査によって有効な先行技術文献を発見した場合、あるいは相手方の特許を無効にできるその他の理由を発見した場合には、それらを訴訟における特許無効の抗弁の材料とするために、米国の弁護士の鑑定書を取得しておくことが必要です。
  • (4)特許権者による権利行使の可能性判断
    出願及び審査経過を徹底的に調べ、IDS(註2)に係る情報開示義務違反等の不衡平行為(特許権の詐欺行為による取得)の有無を判断することが重要であります。
参考情報
  • (註1)米国特許庁のデータベース http://www.uspto.gov/ 参照
    商業データベースとしては次のものがある。
    • 1)LEXIS-NEXUS
    • 2)DIALOG:Claims,US Patent Fulltext,Dorwent World Patents Index
  • (註2)「IDS」とは情報開示陳述書(Infomation Disclosure Statement)とも呼ばれます。米国特許施行規則では「特許出願及び手続に関係する者」に対し、特許を受けようとする発明の特許性に重要(material)な情報を米国特許庁に開示する義務(情報開示義務)を課している。この開示義務は、情報開示陳述書(IDS:Infomation Disclosure Statement)という形式により必要な情報を米国特許庁に提出することにより履行される。開示義務違反があったことが特許後に判明すると、その特許は不公正行為(inequitable conduct)により取得されたものであるとして権利行使することができない。

本QAは特許庁委託事業「外国産業財産権侵害対策等支援事業」において作成されたものです。
事業内容等は本事業サイト(http://www.jpo.go.jp/index/kokusai_doukou/iprsupport/index.html)をご確認下さい。