侵Q8

気になる他社の特許権の残存期間は1年弱です。大きな販売量が見込まれるので、商社の輸出向け引き合いに応じたく思っていますが、この場合のリスクを教えてください。

質問

海外の商社Z社から、当社のロッキングチェアについて引き合いがありました。しかし、調査してみると、当社のロッキングチェアに関して、競合するX社の日本の特許権があることが判りました。この特許権は、通常の椅子に関する特許発明であり残存期間は1年弱です。Z社と契約が締結できれば大きな販売量となるので、当社は、X社に今回の引き合いを知られないままで、Z社と輸出契約したいと考えております。この場合のリスクを教えてください。

回答

1.

貴社が特許に係る材料を日本において製造し、あるいは、海外に輸出する行為は、X社の特許権を侵害する可能性があります(特許法第2条第3項)。

2.貴社のロッキングチェアとX社の椅子の特許権との対比・検討

貴社のロッキングチェアがX社の特許権を侵害するかについて、専門家(弁護士・弁理士)の意見を聴取(できれば鑑定書又は見解書を入手)して、確認をとっておくことが重要です。
 また、X社の特許出願日前に、その発明と同一または類似の技術がないかどうか、また出願日前の既存の技術から容易に発明できたかどうかなどを、調査することも重要です。
 その調査の結果、特許を無効にできる先行技術が発見された場合、無効審判を請求し、X社の特許権を無効にすることも検討すべきでしょう。

3.特許権を侵害するか否か(特許発明の技術的範囲に属するか否か)の判断の手順

特許権を侵害するか否かは、特許公報の「特許請求の範囲」に記載された構成要件(発明を特定するために必要な構成要素)を、貴社のロッキングチェアが有しているか否かを判断します。特許発明の技術的範囲は、特許法第70条の規定に従い、「特許請求の範囲」の記載に基づいて定められます。「特許請求の範囲」には、一般に、請求項1、請求項2……と複数の請求項が記載されていますが、それぞれが特許発明ですので、請求項の一つひとつ、そしてそれらの構成要件を確認することが必要です。特許発明は、すべての構成要件が一体として構成されるものであるため、対象製品が、特許発明の構成要件を一部でも欠く場合には、特許権侵害は成立しません。
 ここで、X社の特許権の請求項1を確認してみましょう。
 (※以下は説明の便宜上のためのもので特許性が認められる意味ではありません。)
「【請求項1】
2本の短脚と、 この短脚よりも長い2本の長脚と、2本の前記短脚及び2本の前記長脚に支えられた座部と、この座部より上側で2本の前記長脚を使った背もたれ部と、を備えた椅子。
【請求項2】 2本の前記短脚と2本の前記長脚とをそれぞれ回転可能に接続する回転軸を有しており、前記短脚と前記長脚とが折り畳み可能な請求項1に記載の椅子。
特許公報には、2つの実施例が記載され下記のような図面がありました。

一方、対象製品である、貴社のロッキングチェアを、次のような図になります。このロッキングチェアを文言で特定してみましょう。

「2本の短脚と、この短脚より長い2本の長脚と、2本の短脚及び2本の長脚に支えられた座部と、この座部より上側で2本の長脚を使った背もたれ部と、各短脚と各長脚とを結ぶ曲線状に曲がった2本の梁部と、を備えたロッキングチェア。」

X社の請求項1の構成要件と貴社のロッキングチェアの構成要件とを比較してみます。お気づきのように、貴社のロッキングチェアは、余分に「各短脚と各長脚とを結ぶ曲線状に曲がった2本の梁部」の構成要件を備えていますが、請求項1のすべての構成要件を備えています。このため、貴社のロッキングチェアは、X社の請求項1に係る特許発明を侵害する可能性が高いと判断されます。
 X社の請求項2の構成要件と貴社のロッキングチェアの構成要件とを比較してみます。請求項2は「……請求項1に記載の椅子」との記載があるように請求項1に従属しています。つまり請求項2の特許発明は、請求項1の構成要件に加えて請求項2の構成要件を有しています。
 貴社のロッキングチェアは、請求項2の「2本の前記短脚と2本の前記長脚とをそれぞれ回転可能に接続する回転軸を有しており」の構成要件を有していません。このため、貴社のロッキングチェアは、X社の請求項2に係る特許発明を侵害しないと判断されます。
 貴社が、X社の特許出願日前に、その発明と同一または類似の技術を見つけて、X社の請求項1の特許発明が無効にされるべきものであるときには、X社は権利行使ができません(特許法第104条の3)。専門家に特許権を侵害するか否かを相談する際には、単にX社の特許公報を持ち込むだけでなく、貴社が調べた特許公報や、出願当時の業界誌又は実際に販売された製品写真なども提示して、相談しましょう。

4.X社が採る可能性のある手段

  • (1)特許権の残存期間が1年弱であるとしても、貴社の行為を知ったならば、警告及び製造又は輸出行為の差止を請求することが予想されます。
    輸出販売が軌道に乗った段階で、輸出販売ができなくなるのは、企業として大きなダメージとなることが予想されます。
  • (2)さらに、X社は貴社に対し、差止の請求のほか、損害賠償を求める可能性があります。
    この場合、特許権の残存期間が過ぎ、特許権が消滅した後にも、特許権の存続期間中に販売した貴社のロッキングチェアに対し、損害賠償を請求する可能性がありますので注意してください。大きな販売量が見込まれるということなので、損害賠償額が高額になる可能性があることを十分に認識して下さい。
  • (3)X社が輸出先の海外においても特許権を保有している場合があります。この場合には、その海外の特許権に基づき、貴社のユーザーである海外の商社Z社に対し、侵害行為の停止の請求をしてくる可能性があります。
    また、日本でのX社の特許の残存期間と輸出先の国におけるX社の特許の残存期間とが一致しない場合がありますので、日本でのX社の特許の残存期間が終了した場合に当然に海外国におけるX社の特許も終了するとは判断しないで下さい。

5.貴社が取るべき態度

  • (1)結局、X社の特許権が存続している限り、貴社は大きなリスクを負担するので、特許権が消滅するまで販売は差し控えるべきであります。
  • (2)貴社のロッキングチェアについて、Z社が注目していることは、他社も注目している可能性があります。X社の特許が残存期間終了により消滅した場合、誰でもロッキングチェアについて製造・販売できることになります。
    したがって、貴社は、まだ販売を開始して間もないのであれば貴社のロッキングチェアについて意匠登録出願を検討したり、ロッキングチェアのブランドを確立すべく商標登録出願を検討したりしてはどうでしょう。今からでも、X社の特許権の消滅後においても、貴社のロッキングチェアの保護及び貴社の有位性を確保しておくことに努めることがなによりも重要でしょう。

本QAは特許庁委託事業「外国産業財産権侵害対策等支援事業」において作成されたものです。
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