侵Q4

PCT出願の中国特許出願がありますが、誤訳問題について不安を抱えています。チェック方法も含めて誤訳訂正について教えてください。

質問

当社は、当社にとってきわめて重要なPCT出願の発明について、中国への移行手続を完了しています。

最近、中国における誤訳の問題があると聞いています。当社にとってはきわめて重要な発明であるので、なんとしてでも権利化を図りたいと思っています。PCT出願の移行出願については、誤訳があっても訂正できると聞いていますが、不安であり、チェック方法も含めて教えてください。

回答

1.誤訳問題の結末

  • (1)折角、多大な手間と費用をかけて中国において取得した特許権を行使する段階になって、誤訳が原因で権利の内容が思いもよらない内容になっていることが判明すると、深刻な侵害問題を生じさせている相手方に対しては有利に働いても、当社にとってはきわめて重要な位置付けにある特許権の行使を断念しなければならないという現象となって現われます。
  • (2)この誤訳問題は、わが国から中国への急激な出願件数の増加に伴って、現地代理人の処理件数も増加し、負荷が加重になっていることとも関係していると言われております。
  • (3)しかし、現実には、単純な誤訳や翻訳漏れのほか、特許請求の範囲の段落全体が抜け落ちていたケースなども報告されています。特に特許請求の範囲の桁や単位が誤って翻訳されている場合もあります。

2.誤訳問題への対処方法

出願人としては、次の対処方法を採ることに注力して下さい。

  • (1)出願人と翻訳者とのコミュニケーション体制を整え、翻訳者の勝手な解釈を予防する。
  • (2)翻訳会社の翻訳能力や品質管理を事前・事後共に常にチェックする。
  • (3)社内で自社商品知識と中国語に精通している人がいるのであれば、出願時翻訳文を抜き取りないしクレーム部分だけでも社内でチェックする。また、そのようなチェックが行い得る人材を育成する。
  • (4)中国での翻訳文を別の業者により日本語へ再翻訳するなどして、誤訳チェックを行なうのも良い方法である。
  • (5)翻訳会社へ当社の技術用語や技術内容を教え、「自社のための翻訳会社」を育成する。

3.日本の出願人が採るべき基礎的事項

上記の対処方法のほか、日本の出願人として採るべき基礎的事項としては次のようなものがあります。

  • (1)誤訳を生じさせない日本語又は英語文章を作成することに注力する。
  • (2)文章の簡明化に努める(不明瞭な文章や長いセンテンスは誤訳され易い;主語を明確にし;修飾関係に誤解が生じないようにする;多重の打ち消し表現を避けるなど)。
  • (3)用語の定義を明確にする。
    • 1)技術用語や新しい用語については括弧書きで英訳を付ける。
    • 2)日本語、英語、中国語の用語対照表があると望ましい。
    • 3)有機化学用語など中国語としてなじんでいない用語があることに注意する。
    • 4)用語は同じ単語を一貫して使用する。
    • 5)国際的な単位を使用する。
    • 6)日本独特の特許用語(「係合」「当接」等)の使用を避ける。
  • (4)翻訳会社に対しては十分な翻訳時間を与える。
  • (5)日本語の明細書のほか、英文明細書も提供する。この場合、基準明細書はどちらになるかを明確に指示する。
  • (6)翻訳の質が高い、関連する先の中国出願明細書を参考にするように翻訳を依頼する。
  • (7)中国代理人事務所との間で誤訳に関する責任の明確化を図る。

4.PCTルート出願及びパリルート出願における誤訳訂正

  • (1)外国語書面出願制度を採用していない中国では、PCTルートによるものを除き、出願当初の明細書が中国語となり、この当初中国明細書に記載された範囲でしか補正が認められない(専利法33条)ことから、誤訳があっても当初中国明細書等に記載されていない事項については訂正できない。
  • (2)一方で、PCTルートによる出願では、国際出願日における原文に基づいた誤訳の訂正が認められるため、誤訳対策の意味ではパリルート出願よりもPCTルート出願の方が有利だと言える。
  • (3)しかし、誤訳の訂正が可能なPCTルート出願であっても、誤訳の訂正の時期的な制限が厳しいので、前述のように、出願以前から誤訳防止の対策を取る必要がある。

本QAは特許庁委託事業「外国産業財産権侵害対策等支援事業」において作成されたものです。
事業内容等は本事業サイト(http://www.jpo.go.jp/index/kokusai_doukou/iprsupport/index.html)をご確認下さい。