侵Q1

中国製品を販売している米国企業が、当社の特許権の侵害を認めず、平行線の状態にあります。今後の打開策を教えてください。

質問

当社は、日本のほか中国及び米国において、簡易体温計の特許を有しております。最近、中国企業Y1が当社特許の侵害品を製造のうえ米国に輸出し、米国企業Y2によって販売されていることの情報を入手しました。

そこで、米国代理人を通して米国企業Y2に警告しましたが、米国企業Y2は侵害を認めないまま、現在、平行線の状態にあります。

今後とるべき有効な方法を教えてください。

回答

1.米国における対応及び打開策

  • (1)当事者間の交渉では、通常、特許の有効性、被疑侵害品の侵害の有無を争う技術論争、その結果に基づいて条件面での取決めを行なうビジネス論争があります。
    米国企業Y2が侵害を認めない理由として種々の要素が考えられます。たとえば、①貴社の侵害主張では米国企業Y2は簡易体温計が侵害しないと判断している、②米国企業Y2が本件特許の無効理由を調べあげてその貴社の米国特許が無効であると自信を持っている、あるいは③貴社の製造する簡易体温計が米国企業Y2が所有する特許を侵害している場合などが考えられます。
  • (2)警告は、米国代理人を通して行いましたが、交渉が膠着状態であります。流れを変えるために、貴社が米国企業Y2と直接交渉する方が有効な場合もありますので、その是非を検討してください。
  • (3)米国企業Y2が、貴社の特許には無効の理由(②)があると主張しているのであれば、その無効理由を聞いて、その無効理由に基づいても貴社の米国特許が有効か否かを確認するために米国弁護士から鑑定書を取得しておくことが重要でしょう。
  • (4)米国企業Y2が所有する特許を貴社の製造する簡易体温計が侵害している可能性がある場合(③)、貴社の特許を米国企業Y2に使わせる一方、米国企業Y2の特許を貴社が使う契約(クロスライセンス契約)を結ぶことも考慮に入れるべきでしょう。
  • (5)不争契約(註1)が和解に向けての打開策となる場合があります。米国企業Y2としては多少の譲歩がやむを得ない状況のもとで、通常のライセンス契約より有利な条件を探るため、あるいは当面の実施の継続を図るためなどを目的として、米国企業Y2が不争契約を提案してくる場合があります。この不争契約は、特許の有効性や侵害の有無について合意したものとはみなされません。
  • (6)米国企業Y2が侵害についてまったく認めない場合(①)や、米国企業Y2との間の条件面の差が大きく交渉が決裂した場合には、貴社は米国で侵害訴訟を提起することになります。
    この場合、米国企業Y2との交渉過程での関係文書の中に、貴社の主張を米国企業Y2が認めたと判断できるような記載がある場合には、大事に保管して下さい。その資料は、逆に米国企業Y2が確認訴訟を提起してきた場合、エストッペル(註2)を主張する材料として利用できる可能性があります。
  • (7)交渉が決裂した場合、米国企業Y2が被疑侵害者としての原告となって、そのメリット(裁判地の選定等)を享受するために「確認訴訟」を提起する可能性があります。貴社としては、この「確認訴訟」が提起される前に、自らが速やかに侵害訴訟を提起することを考慮すべきでしょう。
  • (8)米国での訴訟には多大な費用を要することからしても、適当なタイミングでの和解も考慮して下さい。訴訟提起後であっても、和解のタイミングとして、証拠開示手続段階、公判段階などが考えられます。
  • (9)相手方と合意の上で紛争の決着を図る裁判外の方法として、裁判外紛争処理解決(ADR)があります。これには決定に対して上訴ができない拘束力のある仲裁と、決定案を当事者が了承したときにはじめて効力を生じる調停があります。米国には、その他、ミニトライアル、私的裁判などの特有の制度があります。
  • (10)相手方との交渉場面ではなく、知的財産権の侵害を伴う米国への輸入行為に関して、関税法337条に基づき調査をする、米国国際貿易委員会(ITC)を通して権利行使を図ることも考えられます。

2.中国企業Y1をターゲットとする方法

  • (1)貴社は、中国特許権も有しておりますので、中国企業Y1をターゲットとすることも有効な場合があります。
  • (2)権利行使の態様
    • ア 行政ルートとして、知識産権局、その他、工商行政管理局(商標・不正競争防止)、版権局(著作権)、質量技術監督局(品質的誤認)及び税関登録があります。本ケースの場合には、特許権の侵害でありますので、専利業務管理部門である、知識産権局に申立を行なうことになります。
    • イ 司法ルートとして、人民法院(裁判所)に提訴する方法があります。この場合、中国は広大であり、裁判所ごとに取扱が異なる場合(たとえば「地方保護主義」の影響を受ける場合)がありますので、裁判の管轄に関する規定に注意して提訴地を選ぶことが重要であります。
  • (3)侵害について、訴訟を提起するか否かに関わりなく、中国の弁護士又は弁理士から鑑定書を取得することが有効でしょう。
  • (4)中国企業Y1が当社特許の侵害品を製造のうえ米国に輸出していることの事実関係について、貴社が中国において支社などをもっている場合には、その現地の社員などを通して証拠の収集を図るほか、中国の弁護士に証拠の収集を依頼することも有効な方法でありましょう。中国では日本と同様に公証人制度があるので、証拠力を高めるために公証人を利用することを考えて下さい。
  • (5)中国の税関に対し、保護を求めることも考えられます。この場合、中国代理人により委託して税関総署(北京)に知的財産権の税関保護登録を申請することが必要です。
参考情報
  • (註1)「不争契約」とは、ライセンシーライセンスを受ける者)がライセンス技術に係る権利の有効性について争わない義務を定めた契約を言います。
  • (註2)「エストッペル」(estoppel)とは「禁反言」とも呼ばれ、特許権に関しては、出願経過等において出願人のなした主張を、権利取得後の訴訟等において翻してはならないことを言います。出願経過に係る場合には「包袋禁反言(file-wrapper estoppel)」とも呼ばれることがあります。
関連QA
  • 侵Q55 中国において、当社の中国特許を侵害していると、製品を製造している中国企業に警告状を送付したところ、中国企業から「貴社中国特許権は無効であるので、侵害しない」と回答してきました。今後の対応策を教えてください。

本QAは特許庁委託事業「外国産業財産権侵害対策等支援事業」において作成されたものです。
事業内容等は本事業サイト(http://www.jpo.go.jp/index/kokusai_doukou/iprsupport/index.html)をご確認下さい。